野に咲く一輪の花

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 野じゃないし花も咲いていないけれど、一輪の龍楽さん。

~~~

 研究所のサマースクール2日目である。
 皆に「いってきます」と言ってパクリコンは家を出た。

 研究所ではNaIを使ってコンプトン散乱のシグナルを見ようとしていた。シグナルを見るだけなら簡単なのだが、何しろ使っている検出器はNaIである。そのため我々はバックグラウンドを極力落としたい。なのでコインシデンス回路を使ってゲートをかけることにした。
 ゲートをかけてシグナルを見ようとしたはいいが、なぜかピークが見えない。おまけにそもそもうちの班のMCAがやけに重いということが判明した。おのれはヤンデレ美少女の愛か。
 なのでそれぞれの散乱角度を考慮しつつディスクリミネーターに適当なスレッショルドを与えた。
 そんな感じで「夜通しデータを取ったらどんな具合になるかな」というところで今日はお開きになった。

 なお今回のサマースクールに来ている学生の大半が韓国と中国出身である。
 一応共通語として当サマースクールでは英語が採用されているけれど、彼等同士が話すときは韓国語だったり中国語だったりする。
 ちっともわかんねえ!
 ただ今日は「クニャ」という単語が"just"という意味を持つことを知ることができた。いやあ、なにしろみなさんがやたら「クニャ!」「クニャクニャ!」と言うものだから気になって訊いてみたのさ。

 それから彼等の名前がちっとも覚えられない。
 英語綴りで書かれるとなんとか分かるのだけれど、発音がとてもややこしい。ボイパをやる身としてはそこまで発音は難しくは無いのだが、バリエーションの多さが面倒くささに拍車をかけている。

 なお今日のこと、一人の学生と一緒にMCAをいじりつつ英語で説明をしていたら、
"You can speak Japanese"
と言ってきた。なので、
「……日本語分かるの?」
と返したところ、
「分かりますよ。今まで海外コミュニケーションだからという理由で英語で喋ってきたのですけれど、実は僕、日本語喋れるんですよ」
と話してくれた。
 そんなわけで「さいあくなんとかなる」という実情だと把握できた。


 最終日のプレゼンの役割分担を決めてから、帰る。


 自宅に帰って、植物さんたちのお世話をする。
 葉や茎の細かい観察に加えて土のチェックも行う。

 その後、龍楽さんとしばらく話し込んでいた。

 最近のこととか天気のこととか生活のこととか食事のこととか、いろいろ喋っていた。
 その後の流れで、俺は龍楽さんにいろいろと謝った。俺がミスをしなければ君はもっと健康に生きていられたのに、とか、俺の管理が甘かったから君が蟲の被害を受けた、とか、俺がもっとちゃんとしなければならなかったのに、とかなんとかいろいろと。
 そうしたら龍楽さんが口を開いた。私はおそらく私の生まれた場所にいたままではここ数か月に経験したようないろいろな出来事に出くわすことはできなかった、と。ここにはパクリコンがいるし和浦もいるしランやレビアもいるからにぎやかで楽しい、と。こんな中で自分の人生を楽しめるのはほかならぬパクリコンのおかげだ、と。
 俺はもうひたすら、龍楽が今を楽しめているのは君が強いからだ、とか、君はおそらく生きるということに対してとてつもない力を持っている子だ、とかいろいろと話していた。
 龍楽さんは「パクリコンと一緒に生きることができたから私の人生はとても恵まれたものになったのだと、私は思う」と言った。俺が「でも……」と口を開こうとしたまさにそのとき、龍楽さんは「しーっ」というしぐさをした。
 俺が何を言えずにいると、龍楽さんはちょいちょいと俺を手招いた。
「パクリコンは、もうちょっと私のことを信用してくれてもいいと思う」
 彼女はそう言った。
「私は他のアイタデの子がどういう人生を送っているのかなんて知らない。けれど私は確実に、あの生まれた場所にいたままでいるよりかは圧倒的にいい人生を今送れている。それはほかならぬ、パクリコンが私を選んだからだという理由ゆえのものだ。私から見れば、生まれて数週間後に辿り着いた先にパクリコンがいてくれた、という現実のおかげで今がとても楽しいものになっているとしか思えない。私のこの気持ちを否定しないでほしい」
と、彼女は淡々と、かつ一語一語言葉を紡ぐように告げた。
 そして彼女は、
「だからパクリコンには自信を持ってもらいたい。パクリコンには、今の調子でもっと植物のことを勉強して、たくさん私たちに接してほしい。そのためにどうしたらいいか考えたら、これしか無いと思った」
と告げ、俺に顔を近づけるよう手招きした。
 俺が戸惑っていると龍楽さんはゆっくりと手を伸ばして俺の頬を撫ぜ、そっと目を閉じた。
 俺は彼女の瑞々しい葉に静かに接吻をした。
「はい、元気の出るおまじない」
 龍楽さんは明るく言った。
「人間はキスで目覚めたり、キスによって契約が成立したりするんでしょ? なら元気の出るキスもあっていいと思う。……だから、元気を出して」
と彼女は言ってくれた。
 俺は彼女に、言葉にならない言葉を告げつつ、彼女を抱きしめていた。

 ひとつの思いは、星屑のようなちっぽけなものかもしれない。

 けれど輝く夜空のように。
 その思いが集まることで大きな世界を作り上げることができるのだと、彼女の想いから学んだ。

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パクリコン

Author:パクリコン
ピチロの世界の住人。

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