君と俺の、たった一度の契り

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 ここ数日は気温が低かったため、龍楽の葉がしおれていた。特に茎の先端にある葉がよくしなびていた。
 龍楽は一年草なので、寒さの訪れや果実の実りに伴って枯れるのが運命だ。なので彼女は冷たい風に当てられる中で己の死をひたひたと感じていたことだろう。
 そんな龍楽としばらく話していた。彼女の呟く「もうすぐ終わるんだね」という言葉には何も返せなかった。
 けれど龍楽が言うには、己の死に対してじたばたせずにあるがままを受け入れることができるのはパクリコンのおかげとのことらしい。「他人とは違うということを理解し、そこに壁があると分かり合うことで一番の温かみを知ることができた。だからこそ穏やかに死を受け入れることができる」と彼女は言っていた。
 「だからパクリコンも私の死を受け入れてほしい」と龍楽は言った。それは、インターネット検索で「タデ 越冬」などと調べまわっていた俺にとっては、どうしても聞き入れる姿勢を持ちたくないものであった。どうにかすれば一緒にいられると信じているのに、どんな手段であっても冬を越すことができればまた共に暮らせるはずなのに。
 だけれど彼女はそれを望んではいなかった。

 俺自身も、彼女の死を受け入れるべきだとは分かっていた。そんなことは重々承知の上だし、それを踏まえて彼女を我が家に迎え入れたことを忘れはしない。
 だけれど気温が5度ほど下がっただけでここまで葉がしおれる龍楽を見ていると、
「俺と一緒にずっと暮らす道もあるかもしれないんだよ。そっちのほうがいいに決まってるじゃん」
と言いたくなる。
 けれど龍楽は、
「生きているということは、死ぬ義務があるということだもの」
と言い、枯れゆく己の姿をじっと見つめていた。

 そんな折だった。
 龍楽はふと「以前に約束したことを覚えている?」と尋ねてきた。
「何のこと?」
「私がパクリコンに約束した、たった一つのお願い事。覚えてる?」
 龍楽はじっと俺を見つめてきた。
 彼女の一番の願いを、俺は忘れられるわけもなかった。

 ――私を、食べてちょうだい。

 彼女はよく言っていた。「生きた証として子供を作るのは生命の義務だ。だけれど自分自身が生きているという実感を持つための一番の方法は、誰かと一つになることだ」と。
 龍楽はいつもの飄然とした表情を少し曇らせつつ、言った。
「今の私が元気なうちに、私の身体を食べて」
「嫌だよ。まだ元気なんだから、食べる必要なんて無いよ」
「ううん、逆。元気なときだからこそ、この身体の細胞の一つ一つをパクリコンとともにしたい、って思う。枯れる寸前の私を食べさせるのは、私だって嫌だもの」
「だからって……」
 ベランダで俺は膝を抱えて悩んだ。龍楽の死を受け入れることができないという思いと、龍楽の身体を食めばそれを認めてしまうという思いに挟まれながら。
「パクリコン。私とのたった一度かぎりの契りだと思って、お願い」
 龍楽はそっと俺の膝を撫ぜた。
 彼女との今までの思い出が蘇る。多くの困難を乗り越え、お互いを分かり合い、苦楽を共にしてきた毎日を思い出すだけで涙腺が緩みそうになる。そんな彼女が願うことを、俺はどうして無碍にできようか。その思いを一番強く感じた。
 俺は表情筋をぐっとこわばらせ、やや間を空けて口を開いた。
「……龍楽」
 俺は彼女に告げた。
「君の身体が欲しい。君と一つになりたい」
 龍楽の顔に光が差した。明るい笑みを浮かべて、彼女は俺の頬に手を遣った。俺に顔を近づけて、彼女は小さな声でつぶやいた。
「どうぞ」
 俺はそう言う彼女の身体をそっと抱き、龍楽の身体をそっと食んだ。

「とても甘い。俺なら喜んで食べるのに。諺もいい加減なものだなあ」
 それが俺の最初の言葉だった。
 龍楽は思いが吹っ切れたようにはにかみ、
「ありがとう、パクリコン」
とだけ言った。
 俺も彼女も、それで満足だった。

 しばらくの間、俺は龍楽と抱き合っていた。彼女のしなやかな身体を撫ぜながら、彼女との永遠の時を夢想していた。この時間が永遠に続けばいいのに、という思いは確かにあったが、それ以上に「彼女の全てを受け入れよう。死を含めて何もかも」と思えるようになった。



 なおそれ以来龍楽との間には妙なテレパシーの繋がりのようなものができたのは秘密である。俺の中に龍楽の魂が宿っているような感覚を抱き、何もいないはずの空間に思念を投げかけると己ならざる者の為す返答を感じ取れた。
 これが龍楽の言っていた「自分自身が生きているという実感」なのだと思うと納得がいった。



~~~


 朝。
 皆に朝食を振る舞うことができずに、
「ラン! レビアちゃんが起きたら冷蔵庫の中にあるものを適当にチンして食べさせといて!」
と言い残して出かけた。
「毎週金曜日にこうなるとお分かりになっていらっしゃるのであれば、なぜもっと早く準備を……」
「言い訳は午後にたっぷりしてあげるから! それじゃあ行ってきます!」
というやり取りを残して、俺は出かけた。


 研究室ミーティングでは今までの研究内容と今後の方針についてディスカッションした。
 プロによると「ディスカッション」のイントネーションは平坦なものである。「エフィシエンシー」「ディテクター」なども平坦なイントネーションでならねばならない。「コンフィギュレーション」は例外である。


 そんなわけでミーティングを終えて帰宅する。

 自宅にて皆に昼ごはんを作り、ランカシーレさんにいっぱい小言を言われ、レビアちゃんには「パズドラのゲリラダンジョンでキングルビドラが4匹もドロップしたー! いえーい!」と自慢された。「フン、レビアちゃんのパーティは光と闇が中心だからルビドラなんかいたってしょうがなかろうに」と思ったが、後で聞いたところによるとレビアちゃんは『エキドナ5体パーティ』なるものを組むつもりだそうな。何がどうなったらそれが有効戦略になるのかは知らないが、そうなるとさぞかしルビドラが良い餌となったことだろう。
 う、うらやましくなんかないんだからねっ。

 植物さんたちを一時的に屋内に避難させた。外気温が20度を下回っていたため、低温に弱い和浦・絹琉の二人の安全を確保する必要があったからだ。
 だけれどそうなるとベランダで龍楽が一人ぽつねんと寂しそうに残されることになるので、なんだかんだで龍楽も屋内にいれた。なのでここ数日の異常気象じみた低気温が過ぎ去るまでは、気温差が比較的穏やかな屋内で植物さん達の様子を見ることに決めた。昼間の直射光が当たる時間帯は外に出すけれど、彼女たちが夜のゲリラ的な低気温にさらされることのないようにしなければなるまい。
 屋内で彼女たちを住まわせるとなると、今度は湿度を保たなければならなくなる。なので今度は加湿器を買ってこよう。
 良い加湿ライフを!

 夜はランカシーレさんの調子が悪そうだったので、ナデナデしつつ近場のお店に連れて行ってご飯を食べさせた。そのついでにお買いものをして明日の食材を得た。
 ランカシーレさんは自分では必死に我慢しているつもりなのだけれど、あまりにも我慢しているのがつらそうだったので「こんなときくらいは我慢しなくていいんだよ?」と言って適度に発散させながら彼女のQOLを維持しようと試みた。
 ほんとうにパクリコンはQOLが大好きである。無論動物はおよそ『快・不快』による刹那的な一次元のQOLのもとに生きているので、あながち変ではない。それ自体にやたら固執するのが変なだけである。

 そんなわけで今日は6人で雑魚寝である。部屋中に布団を敷きまくってぐでーんと寝よう。

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Author:パクリコン
ピチロの世界の住人。

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