キュアードレフトハンド1

 お手紙を書いていた一日だった。

 お・し・まいっ!

 ……ではつまらないので、SSを書こうと思う。
 この記事を書くのがじつに11月9日なので記憶が曖昧模糊たんだからではない。
 ブログなのでなんでもおっけーねである。
 髪の匂いをかぐやいなや饂飩を食べていいよね?

チルノ「Fuck ⑨ファッキュー。ぶち殺すぞ、ゴミめら」




~~~




 ピチせかSS。
『キュアードレフトハンド』


 扉が閉じてレビアとパクリコンだけが病室に残された。レビアは今しがた看護師が残した思念を何度も反芻しながら、事実の整理とそれの受け止めを試みようとしていた。しかしどうあがいたところでレビアの脳裏にある『肺ガン』というシニフィアンのこだまはなかなか止まらなかった。
「レビアちゃんもお昼ごはんをどこかで食べてきたら?」
 パクリコンの声がレビアに投げかけられた。
「えっ? あ、うん。そう……だね」
 レビアは心ここにあらずな声でパクリコンに答えた。それを聞いてかパクリコンは頭の中で、
『あっ、昼ごはんをよそで食えだなんて普通女の子には言わないよな。俺ってほんと彼氏力が無いなぁ』
とぼやいていた。
 それを察知したレビアは反射的に、
「ねえ、あたしも一緒にお昼ごはんをここで一緒に食べていい? せっかくなんだしさ」
と尋ねた。
「おおぅ、いいよ! もちろん! ここの病院には購買部があったはずだから、何か買ってきなよ!」
 そのパクリコンの妙に活気づいた声はレビアをして行動せしめるには充分だった。
「うん、じゃあここで待っててね!」
「ああ。……まあ、ここは俺の病室だしなぁ」
 そんなパクリコンの声を背に受けて、レビアは病室を出た。

 病室の扉にもたれかかりながら、レビアは呼吸を整えて意識を集中させた。
「肺ガンだなんて……! 頸部リンパ節炎じゃなかったの……!?」
 レビアは少しずつ整理されてゆく思考の中で、今やこの事実をパクリコンが知らないということに改めて気付いた。
「そうだよ……だって当の本人が知らないだなんて、おかしいにもほどがあるよ。でも……さっき看護師さんがパクリコンさんに肺ガンだと伝えなかったのは何か理由があるのかな。そりゃあ医学の知識なんてあたし達には無いんだからちっとも想像つかないけれど……」
 しかしレビアは最後に一つの結論に至った。
「パクリコンさんはこの事実を知りたいと思うのかな。知りたいのなら教えてあげたい。知る覚悟とか知ってなお受け止める勇気とかいろいろ必要だろうけれど、でも……パクリコンさんがそういうつもりなら、あたしは教えてあげたい」
 レビアはぐっと右手を握りしめた。
「パクリコンさんがどういう姿勢でいるのか、今のあたしになら確かめられる。……うん、まずは確かめてみよう!」
 レビアはそう決意し、購買部を探して速い歩調で廊下を歩きだした。

 ややあってパクリコンの病室の扉が開き、レビアが顔をのぞかせた。
「ただいま」
「おかえり」
 パクリコンが患者衣のまま食器を前に座っている光景に対し、レビアはいまだにいびつさを拭いきれなかった。
「あれ、先に食べててくれてもよかったのに」
「君に先んじてそんなことできるかいな」
 パクリコンはふざけた口調でそう返したものの、それはレビアをしてはにかみさせるには充分な返答だった。
「じゃあ……食べよっか」
 レビアはパクリコンの引いてくれた椅子に座り、手を合わせた。
「いただきます」
「いただきます」
 二人の声が何ともなしに斉唱された。
 レビアはしばらくの間少しうつむいたままパンをかじりつつ、パクリコンの思考をうかがっていた。しかし時折こぼれてくるパクリコンの思念といえば『病院食タイムアタックをまたやりたくなってきた』とか『怒られる確率が100パーセント以上である愚行をどうしてできようか。いや、できまい』といったものであった。それでもなお「パクリコンは確実に今の自分の病状を理解していない」という事実をレビアが知るには十分すぎるほどの思念であった。
「ねえ、パクリコンさん」
「ん?」
 レビアはいよいよもって口を開いた。
「パクリコンさんはさ、未来を知ろうと思ってタイムテレビを使ったことがあるんだよね? どうして未来を知ろうと思ったの?」
「ああ、あれは……どうしても知りたかったことがあってさ」
 パクリコンは箸を持つ手を緩めて少しずつ思い出すように話し始めた。
「一番最初は興味本位で俺と聖ちゃんとの未来を見たんだ。その未来では10年後に俺が死ぬという光景が映されていた。けれど後に俺は聖ちゃんと別れそうになった。そこで俺は『もし聖ちゃんとここで別れたら10年後俺はどうなるんだ?』と思ったんだ。無論タイムテレビの存在が無ければそんな疑問なんて抱きもしなかっただろうけれど、結果的にタイムテレビがあるがゆえの疑問が生じた。それが一つのパラドックスを作ったんだ」
 パクリコンは少し虚空を見つめ、そして話を続けた。
「前もって聞かされていた話では、タイムテレビを見たからと言って未来は変わらない、というものだった。ところが結果的にはタイムテレビ自体がその法則を破るような働きをしてしまったんだ。その矛盾に対する疑問をどうしても解決したくて俺はタイムテレビを二度使用することにした。そしてその結果君が今目にしている通り、俺はランと結ばれて長生きできる未来を選ぶという前代未聞の行動ができた」
 タイムテレビそれ自体が前代未聞な機械であることを暗に含めながらパクリコンは続けた。
「俺自身の一番の関心事はタイムテレビの性質だった。もちろん他人が当時の俺の行動を見て『お前は単に自分の寿命の長短をタイムテレビで調節したかったにすぎない』と言ったところで、俺はそれを否定する術を持たない。実際俺はどういう理由であれ自分の寿命が一番伸びる選択をしたにすぎないのだから。だけれど少なくとも俺の中では、どうしてもタイムテレビの持つ性質に対する拭いきれない疑問を解決したくてタイムテレビの使用をした、という姿勢でいた」
「そうなんだ……」
 レビアは少し顔をしかめて再びパンにかじりついた。
 パクリコンは自分の寿命ではなくタイムテレビそれ自身の持つ性質に対する問題提起と解決のために未来を見た。パクリコンにとって寿命などどうでもよいことなのだろうか。
「ねえ。パクリコンさんは寿命が伸びることに対して嬉しくなかったの?」
「うーん……その質問に愚直に答えると絶対に誤解を招くから少し形式を変えて答えるね」
 パクリコンは言葉と言葉を繋げるように続けた。
「俺は聖ちゃんとの短い未来を歩むよりも、ランとの長い未来を歩むほうが嬉しいと思えた。問題は寿命の長さじゃなくて誰と生きるかというところなのだけれど、それのメリットの大小がそのまま寿命の長短と一致しているからね。さっきの質問にそのまま答えるとどうしても俺が寿命云々だけで未来を選んだように聞こえるだろ?」
「うん。それは……そうだね」
 レビアはこくりとうなずいた。そしてそのまま顔をあげてパクリコンに再び問うた。
「じゃあもし今のランちゃんとの未来の長さに関わる問題があったとして、その問題をパクリコンさんは積極的に知ろうと思う?」
「うん」
 パクリコンはあっけなく答えた。
「もう俺は俺独りの身体じゃないからね。俺の寿命の長短に関わる問題があったとして、それがランや君に関わっていないはずがないもん」
「それは……そうだけれど……」
 レビアは腑に落ちない面持ちで反駁の言葉を探した。
「まあ何にしても、俺は俺の寿命の事で恋人や家族がつらい思いをしてしまうことだけは避けたいと思うよ。ここで言う家族というのは、君も含めて、だ」
「うん……」
 レビアは少し俯いてパクリコンの言葉を心の中で繰り返した。
 どうしてこの人は自分の寿命に全く固執しないんだろう。少しくらい生に対する執着があってもいいのに。まるで自分の人生などとうの昔から自分の物ではないかのようだ。
「パクリコンさんはさ、いったい何のために生きてるの?」
「自分の子供のためだよ」
 パクリコンはさらりと答えた。
「俺は下等な生き物だから、自分の子孫を残すことだけが生きる目的だと思ってる。それが目的だから、それを叶えるための手段たる我が伴侶も守らなければならないし、それの手助けとなる我が友も守らなければならない。そう考えるととてもすんなり物事が理解できるようになったよ。……まあほんの3年前にランと付き合い始めてやっと気付いたことなんだけれどね」
「そっか……」
 レビアは俯いて押し黙った。
 あの恋人にしてこの人あり、と思えるくらいにそれは理にかなった答えだった。ランカシーレが相当子供に拘る人であることはレビアも知っていた。今から3年前にパクリコンと聖の間にパクリコンと血の繋がった子供を残そうという無茶な提案をしたのがランカシーレであると聞かされて以来、ランカシーレが脊髄反射的に子孫存続の本能をことさら重要視しているという事実をレビアは疑いなく信じていた。
「じゃあ……健康な子供を残さなきゃね……」
「ああ」
 レビアの言葉にパクリコンは軽くうなずいた。
「そのためには病気なんかさっさと治さないとね……」
「ああ」
 レビアの言葉にパクリコンは再び軽い返答を為した。
「……でもさ」
 レビアは少し間を空けた。
「今回の入院ではやたら頸部リンパ節炎の検査が長引いている……って思わない?」
「うん……?」
 レビアの言葉にパクリコンはふと言葉を詰まらせた。
「そうなの?」
「うん。医学部の友達に聞いただけだけれど……パクリコンさんのケースだと普通は検査が1日か2日で終わって、残りは様子を見つつ療養させるが大部分なんだって。それなのに……なんだか検査が多いとは思っていたんだよ」
 パクリコンはレビアの顔をじっと見つめていた。レビアは続けた。
「なんでだか、知りたい?」
「……」
 パクリコンはレビアの顔を見つめたまま口を開かなかった。しかしパクリコンの思念は確実にレビアの頭に流れ込んできていた。
『未来を知るかどうかっていうのはこのことだったのか。何て言えばいいんだ。知りたいには知りたいけれど、レビアちゃんを苦しめさせてまで知ろうとは思わないのに……ああちくしょう! 俺がもうちょい早く察せていればなあ!』
 レビアは口角をゆがませた。パクリコンのその思念それ自体にレビアは煩悶した。いっそのこと「そうじゃない!」と言ってしまえればどれほど気が晴れる事か、と思ったくらいであった。
「ごめん」
 レビアは口を開いた。
「質問の仕方が悪かった。あんな訊き方したらそりゃあ『知りたい』って答えるしかないよね。だから質問を変え」
「なくていい」
 パクリコンは口をはさんだ。
「どういう訊き方されても一緒だ。俺の答えは『知りたい』だ」
 パクリコンはレビアをじっと見つめた。
 レビアが何も言えずにいると、パクリコンの短い思念が流れてきた。
『俺はこれ以上レビアちゃんが悩み悶えさせたくない』
 レビアはそれを受けて顔をゆがませた。
「……パクリコンさんは、なんだかんだで長生きしそうにない性格してるよね……」
「まあな」
 レビアの呟きにパクリコンは簡潔な肯定を添えた。
「よし、じゃあ言うね」
 レビアは息を吸った。
「さっき偶然知ってしまったんだけれど、パクリコンさんは肺ガンにかかってるんだって。だから検査も長く続いているんだってさ」
「……」
 パクリコンは黙ったままレビアの目をじっと見つめた。これ以上出すべき言葉が無いとレビアが目配せすると、パクリコンはふっと微笑んでレビアの頭を撫ぜた。
「よく言ってくれた、ありがとう。俺もすっきりしたよ」
 レビアはパクリコンの返答を聞いて、たまらず尋ねた。
「ねえ、パクリコンさんは驚かないの!? だって肺ガンなんだよ!? 頸部リンパ節炎だけじゃなくて……ガンなんだよ!?」
「うん、らしいね。でもそのための検査だろ?」
「そうなんだけれど……でも!」
「なあ、レビアちゃん」
 パクリコンは落ち着いた口調でレビアを宥めた。
「病院では予め治療の前に、医療側が患者に病状を説明したうえで治療を施す合意を得なければならない。そのインフォームドコンセントがずさんな病院なんて、ここ十年でめっきり減った。ここの病院がそれの例外かどうかは定かではないけれど、少なくとも頸部リンパ節炎の治療と肺ガンの治療は大きく異なるのだから予め分かることだ。その際に細かくガンの進行具合を知っていけばいい」
「でも……!」
「俺は左手の脱臼だけだと思っていたら頸部リンパ節炎だと分かった。そして今度は頸部リンパ節炎だけだと思っていたら肺ガンだった。今更驚かないよ」
「でも……!」
 レビアはなおも逆接の接続詞で詰め寄った。
「なあ、レビアちゃん。ガンだから何なんだよ? ガンになったからって絶対に死ぬような時代でも無いんだよ? 早期治療でガンは治るんだ。そのために俺は長引く検査を受けるんだよ。ことさら困ることでもないどころか、俺にとってはむしろありがたい話だよ。このおかげでガンが完全に取り除かれるのなら、それは望まれるべき事態だと俺は思うよ」
「それは……そうだけれど……」
 レビアがなおも納得できない表情でいると、パクリコンは口調を変えてこう告げた。
「ガンであろうと何であろうと、君が言ってくれたことなのだから俺はそのまま受け止めるよ。だって他ならぬ君が言ってくれたことなんだもの」
「えっ……?」
 レビアは不意を突かれてきょとんとなった。
「忘れもしない2年前のバレンタインデーの前の日のこと、憶えてる?」
 パクリコンの言葉にレビアは一瞬記憶が急回転するのを感じた。
「君がチョコレートと一緒にラブレターをくれた日の事。と同時に、俺が君のことを初めて理解できて初めて愛おしいと思えた日の事だ。憶えてる?」
「……もちろんだよ。忘れられっこないよ」
 レビアは俯いて小さな声で答えた。パクリコンはレビアの肩をテーブル越しにそっと撫ぜて続けた。
「君が教えてくれるまで俺は知らなかったんだ。君がいろんなものを背負っているがゆえに発していた言葉の意味や、君が思いつめているからこそ投げかけていたメッセージの意図を。だけれど君はそれを俺に正直に手紙で教えてくれた。当時は相当伝えにくいことだっただろうし、君はそれを伝えることで俺に嫌われる事すら予想していたんだと思う」
「……うん」
 レビアは無声音じみた声で答えた。
「じゃないと『最後に一度だけ言わせて』だなんて書かないよ……」
「だろうね」
 パクリコンはレビアの腕をさすった。
「君はそれまでずっと本当に君を隠していた。素直になるのにも勇気は要るし、事実一つ伝えるだけでも相当怖いものだ。ましてや嫌われることを恐れてわざと強がっていた自分の正体をさらけ出すことなんてなおさらだ。だけれど……ありのままの君を君は見せてくれた。それはとてつもなく愛おしく、かけがえのないものだと俺は感じた」
 うつむいているレビアにパクリコンは言葉を投げかけ続けた。
「君は教えてくれたんだ、ありのままの自分を他人に見せることの大切さを。と同時に君はありのままの他人を受け入れることがどれだけ大事かも教えてくれた。俺はありのままの君が好きだ。君が俺に愛していると伝えてくれたように、俺も君のことを愛している。外側の飾りの一切合財も含め、その中心にある君という存在を愛している」
 パクリコンはレビアの腕をそっと手に取り、彼女の手のひらをあたたかく包んだ。
「だからありのままを受け入れることに恐れなんて無い。対象を対象としてそのまま認めれば、恐怖なんて抱くわけがない。恐怖というものは、対象に対する知識の欠如によって生じる不安ゆえの心理だ。だから対象に対する一切合財を客観的に受け入れることはそのものの直接的な理解にもつながるし、恐怖に起因する余計な先入観も入らない。それが君の教えてくれた素晴らしい教えだ」
 パクリコンはぎゅっとレビアの手を握りしめた。
「だから君が伝えてくれたことで俺はありのままの病状を受け入れることができた。他ならぬ君が言うのだから心して受け止めようってね。君がいてくれたから俺はちゃんと頸部リンパ節炎にもガンにも向き合えた」
 パクリコンは静かに身を乗り出して、レビアの頭を撫ぜた。
「ありがとう。レビア」
 パクリコンのそれらの言葉には、一言一句たがわぬ思念が伴っていた。
 レビアはそれらを聞いた後にゆっくりと言葉を紡いだ。
「あたし……なんだか酷い思い違いをしていたみたい」
 レビアは俯いたまま、少しずつ吐露していった。
「あたしがパクリコンさんを独り占めできたら何かが解決するものだとずっと思ってた。だけれど……そうじゃなかった。あたしがパクリコンさんを独り占めしようがしまいが、パクリコンさんはパクリコンさんだもん。あたしは……ありのままのパクリコンさんがいい。こうして一日だけ特別な日を設けても相変わらずあたしに接してくれるパクリコンさんがいい。あたしのことを肩書き付けずにありのまま愛してくれるパクリコンさんがいい。だって……あたしもパクリコンさんのこと愛してるんだもん」
 レビアは顔をあげた。
「だから、パクリコンさん。最後にひとつだけあたしの我が儘聞いてほしい。……いい?」
 パクリコンはうなずいた。
「今日の独り占めの日はもう終わりにしよう。今日一日じゃなく、あと10秒で終わりにしたい。……いい?」
「ああ」
 パクリコンはその我が儘を予め見透かしていたかのように頷いた。
「パクリコンさん……」
「ん?」
「ありがとね。もう何も悔いはないよ。ランちゃんとお幸せに」
「ああ。こちらこそありがとう」
 そうして二人の最後の10秒は過ぎ去っていった。

(つづく)

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