君だけの日

 ランをなでなでしていた一日だった。

 昨日の晩からランの具合と機嫌が悪くなっていた。ランが月に一度の生理の前の症候の群に起因する状態に陥っていたからだ。なので俺は「これからの数日間はランのそばにいないとなあ」と思いながらランの頭をなでなでしていた。
 ランの語彙はとても豊富で普段は多彩な表現を用いるのに、今日のように具合と機嫌が悪くなると途端に口にする言葉のバリエーションが減る。ランがベッドでうずくまりつつ俺の胸倉をつかみながら「バカ」と何度もつぶやく様はとても可愛らしい。ただただランが「バカ、バカ。何も分かっていらっしゃらない」とだけ繰り返す時間も貴重なものだ。俺は、
「普段のランなら『浅慮で無知蒙昧な愚者』くらいのことが言えるのに」
と思いつつも、ずっとずっと俺の胸の中で「バカ」しか言わないランを撫でていた。
 レビアがランを撫ぜようとするとランはやたらと攻撃的になるので、俺はランが不用意に手出ししないようにランをむぎゅーっとしていた。その様は「こんなに滑稽なあすなろ抱きがあろうか」と思われるものであったが、今のランにはこれが一番だと思えた。


 朝になり、ランをいっぱい慰めつつ朝食を作った。レビアを先に大学に向かわせ、俺はランに「出かけてくるけれど、何かあったら連絡してね。すぐ戻ってきてあげるから」と告げていた。俺に頭をぽんぽんされるランは恨みがましい目で俺をじっと見ていたが、ややあって無言の後にベッドの中にもぐっていった。俺が大学に行ったのは、ランを掛布団の上から何度も撫ぜた後であった。




 ダイガーク海峡のリブーツ島では修論を書いていた。
 2ページすすんだ!




 自宅に戻り、ベッドの中でくるまっているランの傍に腰を下ろす。
 無言のランに語りかける。俺は、帰ってきたからもう安心だ、とか、気分は悪かろうによく踏ん張ってる、といった言葉をランに投げかけた。ランは時折「バカ」とだけ返すが、その言葉を聞くとなんだか安心できた。
 その後ランの小言を聞いていた。ランはそのときそのときで思いついた嫌味を俺にぶつけていた。ランの嫌味の材料は主にレビアだった。ランは「レビアちゃんとでも結婚なさい」とか「レビアちゃんさえいればよろしいのでしょうに」といった言葉にトゲを付けて何度も何度も投げつけてきた。そのたびに俺は「そんなことない」「俺はランがいい」と答えていた。たまにはこういう敵愾心丸出しのランと接するのも良いものだと思えた。
 しばらくしてレビアが帰ってきたのでランの機嫌がなお悪くなった。ランはときおりベッドを叩いたり俺の身体を突いたりしていたが、やがてそれらに飽きたのかランは掛布団にくるまってそっぽを向いた。俺はランの身体を掛布団の上から撫ぜつつ、レビアに冷蔵庫の中の食べ物を教えて彼女に夕食を摂らせた。

 寝る間際までランは俺の胸の中でぶつぶつと悪態をついていたが、ややもするとランの荒々しい呼吸は寝息に変わった。
 本当に可愛いものだと感じつつ、俺も眠ることにした。

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Author:パクリコン
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