白雪姫、改。前編

 昔々、海の向こうの大きな国の隅っこにある森の中で7人の小人たちが住んでいました。

パクリコン「みんな! 今日も頑張って追い剥ぎをやるぞ!」
レビア「おー!」
ヒジリ「さっさと越冬の準備を済ませたいですしね!」
ラー「やったろうってーの!」
ワイ「バシバシいくのさー!」
ライキチ「今日もこの10トゥンクバズーカを試し撃ちしたいしな」
ロン「はわわわお前らおおおおち落ち付け! 追い剥ぎはやっぱり法律違反だろう!?」
パクリコン「でも俺等をこんな森の奥に追いやったのは国の連中だろ? ちょっとくらい構わないって」
ロン「そ、そうなのか……?」
 ロンは他の連中を見渡しましたが、皆思い思いにエアボクシングやエアカラテに夢中でした。ウォーミングアップってば大事ネ。
パクリコン「というわけで今日もしっぱーつ!」
五人「「「「「いぇあー!」」」」」
ロン「俺はまだ納得してないぞーっ!」
 愉快な小人たち7人衆は今日も今日とて追い剥ぎを行うことにしました。やり方はいたって簡単、この森の道を通る人に殴り掛かればいいだけです。誰でもできます、俺でもできます。
パクリコン「えっきし!」
レビア「大丈夫? 今日は冷えるから、昨日編んでおいたマフラーを使ったらいいよ。はい」
パクリコン「ありがとう。このごわごわした感じがたまらなく愛らしいな」
レビア「もうちょっとマシな毛糸が手に入ったらいいんだけれどねー。今はそれで我慢して」
パクリコン「超絶感謝する。今すぐ君を抱きたい」
レビア「あっはは、今はダメ」
パクリコン「ちぇー」
ヒジリ「あんたら何を話してるんですか。そっちの道をちゃんと見張っててくださいよ」
パクリコン「ふぇーい」
 しかし時間がいくら経てども、ふりしきる雪の中の道を通る人など誰もいませんでした。
ラー「今日も獲物が来なかったらやばいってーの」
ライキチ「10日連続ってのはさすがに厳しいな。そろそろ食料も尽きるころだし」
ワイ「とはいえおれっち達が街に出ていってもろくな目にあわないのさー」
ロン「まいっちんぐだなあ、ほんと」
 皆は思い思いにソーガングラス(光の屈折を利用して遠くの物を見るための便利な道具だぞ! ライキチが発明したものだ!)を覗き込みましたが、待てど暮らせどマテリアルドラゴン一匹すら通りかかりませんでした。
 やがて日は暮れ、カラスが遠くの山へと帰る声の響きを七人は苦々しい表情で聞いていました。
パクリコン「そろそろ帰る?」
レビア「パクリコンさんが帰るってのならあたしも帰るよ」
パクリコン「君は本当に優しい子だなあ。今すぐ君を抱きたい」
レビア「あっはは、今はダメ」
パクリコン「ちぇー」
ヒジリ「はいはい、そろそろ夕飯の支度をしなければならないことですし、帰りましょうか」
ラー「さんせー」
ライキチ「ちゅうせー」
ロン「アルッ! カリッ! セイッ!」
ワイ「今日はロンだけ晩飯抜きなのさー」
ロン「なななななななんでっ!? だったらライキチも同罪だろっ!?」
ライキチ「いや、俺はセーフだ。何故なら俺は天才だから」
ロン「だからなんなんだよぉぉっ!」
 こうして七人はとぼとぼと雪道を歩いて帰ったのでありました。
パクリコン「空も~飛べるはず~。ひーちゃんとわいちゃんって空飛べないっけ?」
ヒジリ「飛べてたら今頃それで食ってけてますよ」
ワイ「飛ぶのは翼竜の昔からの夢なのさー」
パクリコン「まあ……分からなくもないなあ」

 彼等は皆、ピチロと呼ばれる亜動物の子達ばかりでした。少しばかり特別な力を持ってはいるものの、街に住む人間たちは昔から彼等のことを汚いものを見るかのような目で見ており、半年前にとうとう彼等を街から追い出したのでした。彼等に人権などあるわけもなく、国の定めた法律では彼等を人とはみなさないと書かれてある始末でした。
 そんな彼等を人間は『小人』と呼んでいました。彼等の身長は成人した人間のそれと同程度でしたが、ただただ差別されるべき対象として『小人』という単語が用いられていました。

パクリコン「さーってと、ただいまー!」
レビア「ただいまー! おなかすいたねー! ご飯作ろう!」
パクリコン「おう!」
ヒジリ「頑張って作ってくださいね」
ワイ「楽しみにしてるのさー」
ラー「グッドラックだってーの」
パクリコン「きしゃまら……!」
ロン「はわわわわ落ち付け! ジャガイモの皮剥きなら手伝うぞ!」
パクリコン「ありがたい。じゃあ頼んだ。あとヒジリのすけとワイたろうとラーざえもんは人にものを頼む態度というものを教科書でお勉強していなさい」
ヒジリ「そんなこと言ったって、この翼でどうやって手伝えっていうんですか」
パクリコン「あ……いや、それはまあ、できないってのは分かってるんだけれども……うん。なんか、ゴメン」
ヒジリ「……。いえ、手伝えもしないのに偉そうなことを言ってしまい、こちらこそごめんなさい」
パクリコン「うん……」
ヒジリ「……あ、薬草で傷薬を作っておきますね。それくらいならできますから」
パクリコン「任せた。じゃあレビア、一緒に晩飯作るか」
レビア「そうだね」
 パクリコンとレビアこそ少し特徴的な人間の姿かたちをしておりましたが、ヒジリは竜鳥でありワイとラーは翼竜、ライキチはキツネとライオンの合いの子であり、ロンは深海棲艦のような見た目でした。
ロン「そんな見た目してないよ! 地の文なんだからもうちょい正確に描写してよ!」
 訂正します。ロンは潜竜という種です。しかし潜竜といっても何がなんだか分からないのだからこの際深海棲艦だろうが何だろうが構わないんじゃ……。
ロン「俺がかまうの!」
 へいへい。
ワイ「またロンの独り言が始まってるのさー」
ラー「そういうお年頃なんだってーの」
ロン「ちぎゃあああう!」
 ロン君の人生は始まったばかりです! 次回作にご期待ください!
ロン「終わらすなー!」

 その日の夜、皆は寝室に向かいました。
 彼等の家には寝室が四つしかありませんでした。それもそのはず、男4人と女3人で暮しているのだから当然身内で性欲の処理を行っているからです。
パクリコン「ねえ、レビアちゅわん」
レビア「ごめんね、今日もロン君と約束してたの」
パクリコン「ちぇっ。じゃあヒジリさん。俺と……」
ヒジリ「私は今日ライキチ君とやりますんで」
パクリコン「……。あのさー、ワイちゃんさー」
ワイ「おれっちはラーとしかやんないのさー」
パクリコン「なんだよお前ら! 何日連続で俺をハブったら気が済むんだ! 独りでオナニーするのは結構寂しいんだぞ!?」
ヒジリ「今日で一週間目ですね。どうせなら今の組み合わせで延々と続けていってもいいんですけれどね」
パクリコン「いやだー! 俺は独身のまま死にたくないー!」
ワイ「ごちゃごちゃ言うななのさー! 独身で死のうが子供を作って死のうが、死んだら一緒なのさー!」
パクリコン「死んだら一緒ならせめて子作りさせてよ!」
ワイ「それは嫌なのさー」
パクリコン「ほれ見ろ! すぐそんなことを言う! うわあああん! もうお前らなんか知るかー! バーカバーカ! ウンコー!」
 捨て台詞を残してパクリコンは一人用寝室に入っていきました。

 そんなパクリコンが寝室のドアを乱暴に閉めたのを確認して、レビアは静かに呟きました。
レビア「明日のパクリコンさんの誕生日には女の子みんなで相手したげるから、……今はごめんね」
 レビアはドア越しに耳を澄ませましたが、パクリコンのふてくされたバーカバーカという声しか聞こえてきません。
ヒジリ「パクリコンさんも語彙が貧弱になってしまうくらいに落ち込んでいるんですよね……」
ワイ「そりゃあパクリコンの気持ちは痛いほど分かるのさー」
ライキチ「明日の奴の誕生日までだ……。明日のための今日の辛抱だと気付いてくれるといいんだがな」
レビア「でも……やっぱり心苦しいよ。今こんなことやってたって誰も幸せにはならないんだしさ」
ラー「かと言って今更やめる訳にもいかないってーの。これでもう一週間はパクリコンに責め苦を与え続けたんだってーの」
ロン「まあ、誕生日まであと一晩だと思うことにしよう……」
 六人はパクリコンのこもった寝室を見やりました。いまだにときおりバーカバーカというくぐもった声が聞こえていました。
レビア「ごめんね……」
 レビアのみならず、皆が何ともなしに呟きました。

 翌朝。しかし翌朝と呼ぶにはあまりにも早すぎる時間帯のこと。
パクリコン「……結局眠れなかった。外に散歩にでも行くか」
 パクリコンはベッドからのそり起き、まだ肌寒い空気でいっぱいの屋外へと出ました。新雪積もる道にざくりざくりと足跡が残ります。
パクリコン「……みんな酷いよ。なんだって俺をあんなふうにいじめるんだよ。いじめられたら昔のことを思い出すだろうがよ……」
 パクリコンはかつて石をぶつけられたところを無意識にさすりました。当時の痛みがありありとよみがえってくるように思えたからです。
パクリコン「……もう少し歩こう」
 パクリコンは雪道をゆっくりと歩いて行きました

 考え事をしていたパクリコンは、ふとカツンカツンという音を耳にしました。
パクリコン「……ん?」
 それは氷の台地に釘を打ち付けるかのような音でした。それも周期的に訪れるその音は、パクリコンに恐怖という感情を芽生えさせました。
パクリコン「何なんだ……!? 武器を持ってきていない今、妙な連中に囲まれたらひとたまりもないぞ……!」
 パクリコンは近くにあった太い木の枝を手に取りました。何もないよりはましだからです。
パクリコン「来るなら来い……!」
 パクリコンが目を凝らして音のする方向をじっとにらみました。
 するとどうでしょう。真っ白な雪道を、これまた真っ白なドレスに身を包んだ女性が駆けてくるではありませんか。長くて癖のある黄髪を棚引かせながら、幽雅にたくし上げたドレスから垣間見えるガラスのハイヒールを履いたその女性が走るたびにカツンカツンと音がします。
パクリコン「あの女が音の正体か……? しかしこんな森の奥に一体誰だ……!?」
 それもそのはず、森の奥に似つかわしくないくらいに豪奢なドレスをまとい、煌びやかに光るティアラを頭に乗せ、結晶のようにまばゆい宝石を見に付けた女性が独りでこんな森の奥にいるはずがありません。掴んだだけで折れてしまいそうな彼女の白い両腕を握って押し倒せば、あっという間に屈服させることすらできるでしょう。ぱっちりと開いた目にすらりと長く伸びた鼻、熟れたリンゴのように赤い唇に紅の射した頬。それは触ると壊れてしまいそうなくらいに繊細に整った女性でした。
 パクリコンはただただ見とれていました。この世の物とは思えないほどの彼女の艶やかな様を目に焼き付けるためか。はたまた雪の中に舞い降りた女神を一秒でも長く見ておきたいためか。
 やがてその女性はパクリコンの存在に気づきました。パクリコンはふと己の姿を見やります。ぼろぼろの布で繕った服、つぎはぎだらけの外套、作ってもらいたてのマフラーですら彼女の前ではかないっこないように思えました。
 追い剥ぎを生業とするパクリコンが言い知れぬ敗北感に打ちひしがれていると、その女性は息を整えながらゆっくりと近づいてきました。
「ごめんくださいませ、ここの森に住んでいらっしゃる方でございましょうか?」
 ふいに尋ねられてパクリコンは声が出ませんでした。あまりにも上品なソプラノ声で為された小鳥のさえずりのようなその問いかけに、パクリコンは返す言葉を持ち合わせていなかったからです。
「あの……ごめんくださいませ?」
パクリコン「あっ、はい」
 パクリコンはぎこちないイントネーションで言葉を返した。
パクリコン「……そう、です」
 自分でもまともな受け答えができていないことを悟りつつ、パクリコンは声を発した。しかしその女性はそんなパクリコンの返事にほっとしたようだった。
「よろしければ貴方様の御屋敷にて休ませていただけないでしょうか?」
パクリコン「……はい」
 パクリコンは無言のまま踵を返して歩きはじめました。ときおりその女性のほうを見やりつつ、黙ったまま自宅へと歩いて行きました。
 雪道の足跡をハイヒールが踏みしめるたびに、カツンという音が響きました。

 一方その頃小人たちの家では。
レビア「大変だ! パクリコンさんがいない! パクリコンさん、ひょっとして悲しみのあまり……!」
ヒジリ「えええっ!? そんな! パクリコンさんがそこまで思い詰めていただなんて!」
ラー「くそっ! 俺達がバカだった……! 俺達がパクリコンにあんなことさえしなければ……!」
ライキチ「パクリコンは繊細な奴だ。俺達を恨むでなく自分自身の何らかの過失だと思いこみ、その結果自責を念が募れば……!」
ワイ「早まったことをしている可能性も充分あるのさー!」
ロン「皆よ、慌てたらだめだ。ここはパクリコンが寝た部屋を入念に調べる者を一人だけ残して、残る五人でパクリコンの捜索を行うべきだ」
ライキチ「なんでお前はこういうときだけ冷静なんだよ!」
レビア「しかしそうと決まれば!」
ヒジリ「行くしかないでしょう!」
 部屋の調査を行うライキチを残して、レビア・ヒジリ・ラー・ワイ・ロンの五人は武器を片手に外へと駆け出しました。
レビア「パクリコンさーん! パクリコンさーん!」
ヒジリ「パクリコンさーん! どこにいるんですかー!? くっ、こんなときほど私の翼が役立たずだと感じることはありませんよ……!」
ワイ「おれっちはあっちに行ってみるのさー! あっちは崖があるから……ひょっとするとひょっとするかもしれないってだけだけれど……!」
ラー「俺も行くってーの。一人で見たらショックがでかくても、二人で見たら受け止められることってあるからな」
ロン「では崖のほうにラーとワイちゃんは向かってくれ。俺は木に登って見渡してみる。レビアちゃんとひーちゃんは道なりに進んでいってくれ」
「「「「了解!」」」」

 レビアとヒジリやややあってパクリコンの足跡を見つけました。
レビア「この先にいるはず!」
ヒジリ「いそぎましょう!」
 二人は新雪降り積もった道を慎重に駆けていきました。
 やがて二人は道の向こうから誰かが歩いてくるのを見つけます。
レビア「誰!? こちらには武器があるわよ! 止まって!」
ヒジリ「容赦はしませんよ!」
 しかしその人影は返事をよこしてきました。
「俺だー! パクリコンだー!」
「「パクリコンさん!?」」
 レビアとヒジリは大急ぎで声のする方へ走っていきました。するとそこには……。
レビア・ヒジリ「「その人誰!?」」
パクリコン「あ、はい。ええっと、さっき道で会った人なんだけれど……どなたでしたっけ?」
ヒジリ「あまり知らない人と一緒にお散歩するのは感心したもんじゃないですよ?」
パクリコン「反省しますっと。で、ええとこちらが……」
ランカシーレ「申し遅れました。私、ランカシーレと申します。以後お見知りおきを」
 そう言ってランカシーレは優雅にカーテシーをしました。ドレスの先のフリルに至るまでが調和のとれた様を呈していました。
レビア「あ、はい、こちらこそ」
ヒジリ「よろしくおねがいします」
 レビアもヒジリもどことなくかたことな返事しかできませんでした。

 住処に戻った皆はパクリコンの無事に安堵しました。目の前のランカシーレと名乗る女性に対する興味はあるものの、死んだかもしれないと思っていたパクリコンの帰還に喜びを隠しきれませんでした。しかしパクリコンのことを心配していたと悟られないように、皆はパクリコンに問いました。
ラー「ランカシーレさんがパクリコンの自殺を止めてくれたのかってーの?」
ワイ「もうちょい隠せっつーのさー!」
ヒジリ「会話パート一行目にして終わりなんですかね」
パクリコン「えっ、なに? 俺が自殺?」
レビア「そうだよ! 昨日あたしたちがパクリコンさんに酷いことを言ったから、パクリコンさんが落ち込むあまりに自殺したんじゃないか、ってみんなで探してたんだよ! でも……無事でよかった……!」
ライキチ「俺等が全面的に悪かった。その……パクリコン。……なあ、みんな。もう言うぞ? 俺は言うからな!?」
レビア「うん。言おう」
パクリコン「へ? 何を?」
ライキチ「パクリコン。誕生日おめでとう。びっくりさせようと思って今日はパクリコンのために御馳走やらプレゼントやらたくさん用意してあるんだ」
レビア「そしてびっくりの反動が大きいほどいいだろう、っていう浅はかな考えの結果、あたしたちはパクリコンさんにあんなことしてたの」
ヒジリ「パクリコンさん。その……今日だけと言わず、これからしばらくはパクリコンさんのやりたいようにやってください」
ワイ「ほんとそれだけは約束するのさー」
パクリコン「えっ、やりたいようにやるって……ああ。うん、ありがとう。なんだかびっくりしてうまい具合に言葉が出てこないや。なんだか……うまく乗せられちゃった気分だよ」
レビア「パクリコンさん。その……もうこんなことしないから! それも約束する! あたしたちはパクリコンさんを仲間外れになんて絶対にしないから!」
パクリコン「あ、うん、ありがとう……って俺は別にそんなに落ち込んでないから気にするな。まあそりゃあ昨日は割とぐさっときたけれど、俺はお前らの事が好きだし、『何かあるんだろうなー』とも思っていたしさ。なんというか、心配してくれてありがとう」
「「「「「「パクリコ~~~~ン」」」」」」
 こうして七人が熱く抱き合っているところをランカシーレは微笑ましく眺めていました。
レビア「あ、でこの人誰なの?」
パクリコン「それが……俺もよくは知らないんだ。俺が道を歩いていたらランカシーレさんが向こうから走ってきてさ。尋常ならざる気色だったけれど、……何があったんですか?」
 パクリコンの問いに、ランカシーレは暗い言葉を返しました。
ランカシーレ「私は……国から捨てられた者でございます。本来は殺される運命にあったのですが、数奇なことに命を得たためこうして逃げてくることができました。私には行くあてなどございません。まことに図々しいお願いではございますが、今日一晩かぎりこの家で雪をしのがせていただけないでしょうか?」
パクリコン「国から捨てられた……って、どうしてなの? だってそんな綺麗なドレス着ているんだから、さぞかし位の高い貴族だか何かだかのご息女じゃないの?」
ランカシーレ「……はい」
パクリコン「じゃあなんで!?」
ランカシーレ「……。私の父が、私を捨てたのです」
パクリコン「……どうして?」
ランカシーレ「……私の父の性の相手を、私がしなかったから」
 石畳のように重い空気があたりに立ち込めました。
パクリコン「酷い……。そんなことをしようとしたことも酷いし、それを理由に捨てるってのも酷い」
レビア「ろくな親父さんじゃなかったんだね。まあ……子は親を選べないもんね」
ヒジリ「セックスの相手を娘に強要するとか……最低ですよ」
ラー「そんな奴がのうのうと生きていられる現実がありえないってーの」
ロン「でも……それでどうしてここまで逃げてこられたんだ? ここは結構森の奥の方だぞ?」
ランカシーレ「それが……。拒む私に激昂した父は、私を殺すよう臣下に命じました。この森で殺し捨てて来い、……と。人ならざる者はそうしてうち捨てられるのがお似合いだ……と。ですが……私はなんとか臣下の者に懇願し、殺したということにして私を逃がしていただいたのです。二度と国へは帰らない、という約束のもとに」
ロン「そうだったのか……」
ライキチ「……なあ。ちょっとさっきから気になっていたんだが……、訊いていいか?」
ランカシーレ「はい、何なりと」
ライキチ「そのティアラをどこかで見たことあると思っていたんだ。そのティアラはこの国の王家独特のデザインをしているし、それには王室の紋章すら刻まれている。あんた……貴族とかそういうレベルの人じゃないんだろ? もっと格上の人だろ?」
パクリコン「えっ!?」
ランカシーレ「……。はい……私はこのゴットアプフェルフルス国の第一王女でございます」
「「「「「「ええええええええっ!?」」」」」」
パクリコン「いやっ、だって、そんなことが……!?」
ランカシーレ「とはいえ」
 ランカシーレは短く言いました。
ランカシーレ「それも過去の話でございます。今ではそのような血の繋がりなど何の役にも立ちません」
 皆は押し黙るほかありませんでした。

 ランカシーレをどうするか、という話を七人はすることにしました。ランカシーレの聞こえないところで、こっそりと。
パクリコン「ほうっておけないだろ!? 女の子が身寄りも無く助けを求めているのに知らんぷりできるかよ! 俺はあの子を一晩とはいわず、ずっとずっとこの家に泊めておきたいぜ!?」
ヒジリ「とは言いますけれど、本来殺されたはずの子が生きていた上にそれをかくまっていた奴らがいた、と知られたらどうなるんです?」
ラー「かまわんだろうってーの! どうせそうなりゃ国の奴等と戦えばいいだけの話だってーの! こちとら失うものは何もないんだってーの!」
ワイ「戦力が違いすぎるのさー! この森を焼き払われたらおれっちたちは生きていけないのさー!」
ロン「俺達が生きていく手段ならいくらでもある。だがあの子が生きていく手段はそうそうないだろうな。売春宿にでも身を売らない限りは」
ライキチ「そうでもしてもらったほうが無難っちゃ無難だがな。別にこの国では売春宿は普通の商売として成り立っているんだし」
パクリコン「なあ、レビアはどう思う?」
 するとレビアはこう答えました。
レビア「あたしがパクリコンさんに連れられてここの家に住まわせてもらえた時、パクリコンさんは今と同じことを言ってた。そこにヒジリさんが加わった時も、ラーくんとワイちゃんが加わった時も、ロン君が来たときも、ライキチ君を引き取った時も、毎回パクリコンさんは同じことを言った。……七人も八人も同じだよ。厄介事なのは誰もが一緒だよ。だったら……あたしは見捨てることなんてできない」
 その言葉に、皆うなずきました。
パクリコン「決まりだな」
 パクリコンはランカシーレのもとへ行き、告げました。
パクリコン「ようこそ、俺達の住処へ。俺達は君を歓迎するよ」
 ランカシーレはぱあっと笑みをこぼしました。それは何よりも眩しい笑顔でした。

 ランカシーレに家のことを一通り教えた後、パクリコンを残して5人は追い剥ぎ業のために出かけました。
ランカシーレ「追い剥ぎ……?」
パクリコン「うん。この道を通る人間に片っ端から襲い掛かって、金品を奪い取るの。そうやって生計を立てているからさ」
ランカシーレ「ではなぜ私には襲い掛かりもせず金品を奪いすらなさらなかったのです?」
パクリコン「だって君はもう"人間"じゃないんだろ?」
 パクリコンは良い事を言った感でいっぱいでした。しかし、
ランカシーレ「私たちが最初に出会った時はまだその事実をご存じなかったのではございません?」
という問いによってパクリコンは弾丸論破されました。
 パクリコンは炊事のやりかた、洗濯をしかた、掃除の方法などを適宜ランカシーレに教えていきました。
パクリコン「まあ最初のうちはそんなにやらなくてもいいよ。段々と慣れていったのでいいしさ。それに今まで侍女にやらせていたことをいきなり自分でやるだなんて無茶だろう?」
ランカシーレ「……いえ、私もできるかぎりいたそうと思います。何なりと仰ってください」
パクリコン「……。最近の王女様は随分と腰が低いんだね」
ランカシーレ「王女なる存在はゆくゆくはより強大な国の王家の男性と結ばれて和平のお守りとなるためだけにあるようなものでございます。その際に不出来な様をお見せしては、お守りとして役に立たないでしょう?」
パクリコン「そんな宿命があったのか……。じゃあ王女様暮らしは楽しいもんじゃなかったんだ……?」
ランカシーレ「規則と制約と礼儀作法に縛られるだけの生活に、楽しみなど存在しえませんでした。友達なるものも持たず、ただただ王女としての宿命を全うするよう言われ続けた生活なるものはパクリコン様のご想像通りでございます」
パクリコン「うん……。あ、あのさ」
ランカシーレ「はい、何でしょう?」
パクリコン「様付けじゃなくて、普通にパクリコンさんって呼んでくれない? ほら、友達相手には様付けしないし……って言っても友達って何だか分からないよな。ええっと……」
ランカシーレ「……。いえ、充分理解しもうしあげられました、パクリコンさん」
パクリコン「えっ、あっ、うん、ありがとう、ランカシーレさん」
ランカシーレ「えへへ」
パクリコン「……あっ、ええと、あの、綺麗だね。その……ドレスとかが」
ランカシーレ「ありがとうございます。ドレスとかが、でございますね」
パクリコン「いや、あの……その……」
ランカシーレ「冗談でございます。お気持ちはお受け取り致しました」
パクリコン「あ、うん、ありがとう……」
ランカシーレ「こちらこそ」
パクリコン「……ランカシーレさんは案外男の人に慣れてるんだね」
ランカシーレ「いえ。父親以外の男性とまともにお話をするのはこれが初めてでございます」
パクリコン「まさかあ。だって普通に喋れてるじゃん」
ランカシーレ「心臓が喉から飛び出てしまいそうなくらいに緊張はしておりますが、それでも平静を保っているように見えるのでしたらそれは私がこれまで教えられてきた礼儀作法が功を奏したと言っても過言ではございませんでしょう」
パクリコン「そう、なんだ……。あっ、あのさ、そんなに男の人に慣れてないんだったら、俺と二人だけでこの家にいるのは怖いんじゃないの?」
ランカシーレ「怖いと申し上げたところで、どうなさります?」
パクリコン「そりゃあ誰かと替わってもらうか……もしくは誰かもう一人にいてもらうかするよ」
ランカシーレ「……いえ、私はパクリコンさんとご一緒いたしたいと存じ申し上げます」
パクリコン「……いいの?」
ランカシーレ「はい。なにせパクリコンさんは、森の中のドレス姿の私を襲いもせず嬲りもせずにこの家に連れてくださいました。それほどの方とご一緒することをどうして拒めましょうか」
パクリコン「そ、そう……。ならまあ……君がそう言うなら……」
 しばらくの間、パクリコンとランカシーレの間に会話は無かった。
 ややあってパクリコンが何気なくランカシーレのほうを見やると、ランカシーレはパクリコンの顔をまじまじと見つめていた。
パクリコン「ど、どうしたの……?」
ランカシーレ「何故パクリコンさんはそのようにご興奮なさっていらっしゃるのです?」
パクリコン「えっ!?」
ランカシーレ「いえ、はしたないことをお訊きした私の言葉などお忘れになってくださいませ」
パクリコン「興奮って……いや、まあ……そりゃあ……」
 艶めかしく流れる黄色い髪、たわわに実った乳房が覗く胸元、白くしなやかな腕、繊細な指。どれ一つとっても極上の逸品であった。
パクリコン「……そうなるよ……」
ランカシーレ「…………パクリコンさんもですか」
 ランカシーレがふと呟いた。
パクリコン「なにが?」
ランカシーレ「…………私の父が言うのです。お前のその身体を見ていたら、興奮せざるをえないだろう、と。興奮するのはお前のせいだ、と。だからお前が責任を取れ、と」
 パクリコンは慌てて立ち上がりました。
パクリコン「ご、ごめん! そんなつもりじゃなかったんだ! でも、やっぱ嫌だよな! 俺、他の奴を呼んでくる! レビアが相手なら大丈夫だろう。すぐ戻るから――」
 パクリコンの言葉を遮るように、ランカシーレはパクリコンの腕をつかみました。
ランカシーレ「お気になさらず。世の中の男性は皆そういう作りになっているものと今理解いたせました。それに」
 ランカシーレは寂しそうな顔で続けます。
ランカシーレ「私を独りになさらないで」
 パクリコンは返す言葉も無く腰を下ろしました。

 やがて六人が帰ってきました。
レビア「今日もダメだったー」
ヒジリ「雪の日は人通りがめっきり減りますしね」
ラー「この分だと年越しまで稼ぎ高がゼロになりそうだってーの」
ワイ「縁起でもないことを言うななのさー」
ロン「誰が通るかなんて予測できないから、こればっかりはなあ」
ライキチ「ああ。俺の頭脳をもってしても不可能だ」
 そんな六人を出迎えたパクリコンとランカシーレでした。
パクリコン「昼飯作っておいたぞー。いっぱい食べろー」
ランカシーレ「おいしいお料理ができあがっております」
「「「「「「ひゃっはー!」」」」」」
 六人はどたばたと食卓へ急ぎました。
パクリコン「あ、今の『ひゃっはー!』っていうのは世紀末の戦士の掛け声じゃなくって、商船改装空母のセリフのほうなんだよ?」
ランカシーレ「何がです?」
パクリコン「あ、いや、いいんだ……。昨日どこかで深海棲艦がどうのこうのって話が聞こえたから、てっきりそういう方向に持っていくのかと思ってたんだ」
ランカシーレ「商船改装空母……。それはどういうものです?」
パクリコン「ああ。船の中に飛行機を載せてね……」

 昼ごはんが終わった後、追い剥ぎ業にでかけようとする六人がいました。
パクリコン「なあ、俺がランカシーレさんと一緒にいたのでいいの?」
レビア「いいよ。というより、パクリコンさんが一緒にいてくれたほうがいいの」
パクリコン「……なんで?」
レビア「だってパクリコンさん強いじゃん。ランカシーレさんを守れるくらいの強さがある、ってのをあたしは知ってるよ?」
パクリコン「いや、でもさ、やっぱ俺は所詮男だから……」
レビア「襲うの?」
パクリコン「いや、絶対にそんなことしない」
レビア「ならいいじゃん」
パクリコン「……。分かったよ、任された」
レビア「うん。あ、それと台所の一番上の戸棚にある食材は自由に使っていいからね」
パクリコン「うん……うん? なんか知らんが分かった」
 一方ランカシーレは他の五人に話していました。
ランカシーレ「お待ちになってください。今日は12月23日でございます。毎月23日にはこの森の裏手の道を税務の馬車が通ります。警護の者はいるでしょうけれど、サガミフィールドからの税は一億ラーエンを下らないことでしょう」
ヒジリ「えっ!? それって本当なんですか!?」
ランカシーレ「はい。税務の馬車の通る道でここから一番近いのは森の裏手の道でございます。他の税務の馬車が通る道となるとここから人間の街を横断せねば辿り着けませんが……少なくともこの森の裏手の道は税務の取り決めとして使用するよう決められてあります」
ラー「さっすが王女様だってーの!」
ワイ「そうと決まれば裏道のほうに罠を張るのさー!」
ライキチ「トラップなら俺に任せろ!」
ロン「よし。俺とラーは陽動役に徹しよう。各々、持ち場につき冷静に行動を執るように」
ラー「……お前、キャラが固まってないと一時のレビアみたいになんだかんだ人から言われるってーの?」
ロン「ふっ、知ったことではないな。俺はそんなくだらぬ外聞では左右されない」
ラー「ぐっ、無駄にかっこいいってーの……!」
 こうして六人は森の裏道に向かっていきました。

 パクリコンとランカシーレはぽつりぽつりと話しながら家事をこなしていきました。レビアの服を借りたランカシーレは髪の毛を頭の片側で束ね、たいそう甲斐甲斐しくパクリコンに教えられるがままに家事を覚えていきました。
 パクリコンはランカシーレにとても親切に接し、ときには慰め、ときには励ましつつランカシーレの一挙手一投足を見ておりました。
ランカシーレ「きゃあっ!」
パクリコン「あっ、大丈夫!?」
 床の段差に蹴躓いたランカシーレをパクリコンは慌てて抱きかかえます。
パクリコン「ここには段差があるから……って、あっ、ご、ごめん」
 パクリコンは慌ててランカシーレに触れていた手をひっこめます。
ランカシーレ「……。何故私に触れることをそのようにお拒みになるのです?」
パクリコン「だって……男の人に触られるのって嫌だろ?」
ランカシーレ「いいえ、平気でございます」
パクリコン「……そう?」
ランカシーレ「正しくは『パクリコンさんが相手であれば平気でございます』という記述になります。確かに私はむやみやたらと乱暴に扱われることを大変嫌っておりますが、一方で」
 ランカシーレはパクリコンの左腕をぱしっと鮮やかに掴みました。どぎまぎするパクリコンの顔を見てランカシーレは続けます。
ランカシーレ「むやみやたらと避けられると、まるで私を王女様なる中身がカラッポの存在として扱われているようで大層腹立たしく思えてならないのです。私とて同じく生きる身でございますから、私と同じ視線で私を見ていただきたいと強く思うことがございます」
パクリコン「そう、なん、だ……」
ランカシーレ「そして!」
 ランカシーレがパクリコンの腕を握る力を強めました。
ランカシーレ「このような我が儘でしかない思いをここまで強く抱いたのも、パクリコンさん相手が初めてでございます。私の勝手であるということは重々承知の上ではございますが、パクリコンさんにはどうか私を一人の何でもない相手として接していただきたいと強く強くお願い申し上げます」
パクリコン「う、うん……」
 ランカシーレはパクリコンの腕を離しました。ほんのりと残るランカシーレの温かさをパクリコンは噛みしめながら、
パクリコン「じゃあ……これからは君のことをランって呼んでもいい?」
と尋ねました。
ランカシーレ「はい!」
 その返答を為したランカシーレの表情はとても眩しいものでした。

 夕暮れになると、六人が帰ってきました。
レビア「聞いて驚け! なんと今後十年は遊んで暮らせるお金が手に入ったぞー!」
ヒジリ「罠が全部発動して馬車がことごとく動けなくなったところを私たちが一刀両断! いやあ爽快でしたね!」
ラー「久しぶりに大暴れできたってーの! これで当分は食料で悩まなくて済むってーの!」
ライキチ「俺のメカが大活躍だったな。しかし同時に今後の改善点とそれを可能にする資金も手に入った。良い事尽くしだ」
ワイ「なにはともあれ、大成功なのさー!」
ロン「はわわわ、こんなことってあるのかよ!」
パクリコン「おう、おかえりー! ってそんな金袋が手に入ったのかよ! ずりずり引きずるくらいに中身の詰まった金袋なんて生まれて初めて見るぞ!?」
ランカシーレ「ご成功おめでとうございます」
レビア「ランカシーレさんのおかげだよ!」
ヒジリ「ランカシーレさんが言った通りでした!」
ラー「ランカシーレさんがいれば最強だってーの!」
ロン「はわわわすごいぞーすごいぞー!」
ライキチ「……ロンのキャラたるやなんぞ」
ワイ「とりあえず、おなかすいたなのさー!」
パクリコン「おおう、いっぱい料理ができてるぞ! なんか戸棚の一番上に豪華な肉があったから使っちゃったが、あれはよかったの?」
レビア「うん、もちろん。だって今日は……」


「「「「「「「パクリコンさん、お誕生日おめでとう!」」」」」」」
パクリコン「お、おまいら……!」
ラー「プレゼントをやるってーの! はい、ダイヤモンド」
パクリコン「ほげー! なんでこんなものがあんの!?」
ワイ「おれっちもやるのさー! はい、パール」
パクリコン「ほげー! これ、追い剥ぎでもやったかのようなプレゼントじゃねーか!」
ロン「そのまんまだけどな。はい、エメラルド」
パクリコン「ほげー! あ、じゃあ次はルビーかサファイアかな?」
ライキチ「いや、特別仕様の12.3cm三連装砲だ」
パクリコン「予想を裏切るが期待を裏切らない! さすがだ!」
ヒジリ「じゃあ私も。はい、12.3cm三連装砲用の弾丸です」
パクリコン「よっしゃああ!」
レビア「あ、で、あたしなんだけれどね」
パクリコン「うん」
レビア「パクリコンさんの頭胸部を彫り込んだ木像なんだけれど……はい」
パクリコン「おおっ! ありがとう! うわあ、丁寧に彫られてあるなあ。大事にするね!」
レビア「そんな、……どういたしまして」
ラー「……ん? レビアちゃんのあれって今日道端で作ってたやつじゃ……」
ワイ「……そういうことを言わないのさー。なにか事情があるのさー……」
パクリコン「みんな、涙がちょちょぎれるほどのプレゼントをありがとう。俺は……俺は……!」
ランカシーレ「お待ちください。私からのプレゼントも受け取っていただけないでしょうか?」
パクリコン「えっ? でも……ランは今日来たばかりなのに?」
ラー「……『ラン』……?」
ワイ「……『ラン』って……」
レビア「…………」
ランカシーレ「はい。心だけのものと言われればそれまでではございますが、今の私がお渡しできるプレゼントはこれしかございません」
パクリコン「……と言うと?」
 ランカシーレはパクリコンの手をそっと握りました。ランカシーレのぬくもりがパクリコンに伝わります。そんなパクリコンはランカシーレがそっと顔を近づけてくるにつれてまぶたをそっと閉じました。
 ちぅっ、という音がして接吻が交わされました。
ランカシーレ「今はこれだけではございますが、今日のお礼をいたしたく存じます。私を助けていただいてほんとうにありがとうございました。そして今日はほんとうにおめでとうございます。どうぞ、健やかなる一年をお過ごしください」
 ランカシーレは、顔を赤く染めているパクリコンに向かってにこっと笑いました。
 他の六人は拍手でそれを讃えて、パクリコンの誕生日は無事祝福されて終わりました。

 就寝の時刻になると、ランカシーレは抱いていた疑問をパクリコンに投げかけました。
ランカシーレ「この家には寝室が4つしかございませんが、これまで皆様はどのようにおやすみになっていらっしゃったのでしょうか?」
パクリコン「ああ、まあ……それはね、うん……」
 パクリコンは言葉を濁します。
ランカシーレ「……そのように言い淀まれるということで察することがいたせました。私も人様のことに口出しできるような立場ではございませんので、お気になさらないでください」
パクリコン「ああ、うん、分かってもらえたなら嬉しい。で、今日の問題はね……」
 パクリコンが振り返ると、そこには互いに気まずい表情で顔を見合わせている六人の姿がありました。
ランカシーレ「何が問題であるとおっしゃるのです? あなた方が寝室でお休みになり、私が居間で休めば済むだけの話ではございません?」
パクリコン「そんなことできないよ。そんなことするくらいだったら俺が居間で寝ればいいだけなんだから」
ランカシーレ「そのようなことをなさらないでください! よそ者の私が居間で寝れば良いというだけの話をわざわざややこしくなさらないでくださいませ!」
パクリコン「それで済む話じゃないから悩んでいるんだよ! それにランはもうよそ者じゃない! 謙遜であれ何であれ、ランが自分のことをよそ者だなんて言う必要はどこにもないんだ! ランは俺達の仲間だ! だから悩んでいるんじゃないか! 俺にはランを他の奴等と平等にベッドで眠らせる義務があるんだ! だからランは……!」
 パクリコンがそこまで口にしたところで、パクリコンはふとランカシーレをはじめヒジリやラーがとてもわくわくした表情でいるのを知りました。ただひとり、レビアだけはおだやかな顔でいました。
パクリコン「……なに?」
ヒジリ「もう決まったようなものじゃないですか」
パクリコン「なにが?」
ラー「これ以外ありえないってーの」
パクリコン「だからなにが?」
ワイ「仲良くやるのさー」
パクリコン「えっ、あの、何? 何なの?」
ロン「よかったな」
パクリコン「ちょっ、おまっ」
ライキチ「俺達が出るまでもなかったな」
パクリコン「何の話!?」
 そんなパクリコンにレビアはそっと告げました。
レビア「パクリコンさんのお誕生日なんだし、パクリコンさんが一番だと思うことをやってほしいんだよ」
パクリコン「うん。でもそれって……」
 しかしパクリコンの言葉もよそに、他の面々は「良い夜を。おやすみー」という言葉を残して男女二人一組になって寝室へと入っていきました。

 残されたパクリコンとランカシーレは、しばらくのあいだ口を開けませんでした。
パクリコン「……じゃ、じゃあ……、ベッドで寝かせるという約束だし、ついてきてください」
ランカシーレ「はい」
 パクリコンはランカシーレを奥の寝室へと通しました。
パクリコン「あの……ここのベッドは狭いけれど、端っこと端っこなら充分距離はあるし、……いや、もう今の俺が何を言っても説得力が無いや」
ランカシーレ「いいえ、そのようなことはございません」
 ランカシーレはベッドに腰掛けながらパクリコンに声を投げかけます。
ランカシーレ「それにパクリコンさんがお相手でしたら、安心して夜を過ごせますし」
パクリコン「そ、そう? それならいいんだけれど……」
 パクリコンもなるべくランカシーレから遠いところに腰掛けます。
パクリコン「じゃあ、毛布はランが自由に使っていいよ。俺はいつも毛布無しで寝ているようなものだし――」
ランカシーレ「嘘おっしゃい」
 ランカシーレの一言でパクリコンは声を失った。
ランカシーレ「パクリコンさんがそのような口ぶりと姿勢で何かをおっしゃるときは必ず嘘をついているときでございます。強がっていらっしゃらないで、どうかこの毛布の中にお入りになってください」
パクリコン「でも……」
ランカシーレ「私からのお願いでございます。私を助けてくださった方を毛布無しで寝させるだなどという私の矜持を傷つける行為を許さないでくださいませ」
 パクリコンは何も言わず、ランカシーレと同じ毛布をかぶりました。
パクリコン「枕も一つしかないから、ランが自由に――」
ランカシーレ「パクリコンさん」
パクリコン「……はい」
 パクリコンとランカシーレは一枚の毛布にくるまり、同じ枕を分けっこして横になりました。
ランカシーレ「静かな夜でございます」
パクリコン「うん……」
 雪がどさりと木の枝から落ちる音だけが遠くから聞こえます。
ランカシーレ「パクリコンさん」
パクリコン「なに?」
ランカシーレ「パクリコンさんは私をランと呼んでくださいました」
パクリコン「うん……」
ランカシーレ「ランはもうよそ者じゃない、……か」
パクリコン「さっき俺が言ったこと……?」
ランカシーレ「はい」
パクリコン「……言い方が乱暴だったのは謝るよ」
ランカシーレ「いえ。逆にあそこまで私のことを思ってくださって発せられた言葉だからこその温かみを、何度も何度も私は噛みしめております」
パクリコン「そう……なんだ……」
ランカシーレ「……今日の私は、奇跡のような出来事の連続でございました」
パクリコン「うん……」
ランカシーレ「命を奪われるかと思えば奪われずに済み、行き倒れになるかと思えば行くあてを見つけ……そして温かい人といっしょにベッドで眠ることができるだなんて」
パクリコン「うん……」
ランカシーレ「そのような私がお礼をいたしたいとずっとずっと思っておりますことを、お気付きでしょうか?」
パクリコン「うん、気付いてるよ。だけれどランは家事の手伝いをしてくれたし、今日の追い剥ぎ業がうまくいったのもランのおかげだし、おまけにキスまでしてもらえて、充分ランはお礼をしてくれた。もう気にすることないよ」
ランカシーレ「……いえ、まだ終わっておりません」
パクリコン「そんなことないのに……」
ランカシーレ「……パクリコンさんは、私が今日お話しした王女の宿命について覚えていらっしゃいますか?」
パクリコン「うん……」
ランカシーレ「王女とは、結ばれる相手の男性に尽くすためだけに生まれてきたようなものでございます。今日いきなりその宿命を捨てろと言われても、そう簡単にこれまでの十数年間の刷り込みを捨てることなど到底できますまい。ですから――」
パクリコン「ラン」
 パクリコンははっきりと言いました。
パクリコン「その日に出会っただけの相手に尽くすということにランが縛られる必要はないよ」
ランカシーレ「ただ出会っただけではございません! 危害一つ加えずに私を導いてくださったどころか、危険が伴う私を匿ってくださった相手をどうして『その日出会っただけの相手』と呼べましょうか!」
パクリコン「たとえランにとってそうであっても、俺からすればランは今日仲間になってくれた女の子でしかないよ」
ランカシーレ「ですが……!」
パクリコン「俺はランの過去をえぐるようなことはしたくない。君のことをよく知りもしないのに、君の父親が君に強要していたようなことを含めてむやみやたらなことをしたくない」
ランカシーレ「……はい」
パクリコン「君がこれからどうなるにせよ、俺はランが幸せになる道を選んでほしいと思う。それがここにとどまることを意味するのか、はたまた国に帰ることを意味するのかはまだ分からない。でも……それがはっきりするまでは俺がランを守る。そんな俺がランに手出ししちゃダメだ」
ランカシーレ「……」
パクリコン「明日も明後日も、まずはランが無事に過ごせるようにしなきゃならない。ランがここで安全に暮せるようになるまでは、俺が責任もってランを守る義務がある。それがこの家にある唯一のルールという名の俺の我が儘だ。だからラン。俺がランをちゃんと守れるまで、俺はずっとこの距離でいるから。だから……安心して」
 ランカシーレからの言葉が聞こえません。パクリコンはランカシーレが寝たのかと思って、
パクリコン「それじゃあまた明日も良い一日にしような、ラン。おやすみ」
と言って目を閉じました。

 ランカシーレは流れ出る涙を悟られまいと、必死に声を押し殺していたようでした。

(つづく)

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Author:パクリコン
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