白雪姫、改。中編

 七人の小人たちと白雪姫との生活が始まりました。

ロン「白雪姫って誰だ?」
ラー「誰だも何も、シラユキヒメだなんて単語は出てきてないってーの」
ロン「えっ、だってさっき地の文で出てきたじゃん?」
ラー「お前さあ、もうちょい現実を見て生きた方がいいってーの。ジノブンだなんて仮想のものを追いかけるよりも、うまい飯食って幸せになったほうが人生充実するもんだってーの」
ロン「えっ……? まさか、地の文が見えているのは本当に俺だけだっていうのか!? はわわわわわおおおおおおちちおち落ち付け俺!」
 まあ誰も信じてくれないと思うけれどね。
ロン「お前が何と言おうと、俺は決して諦めないからな!」
ワイ「またロンのいつもの悪い癖が始まったのさー」
ラー「なかなか難しいお年頃だってーの」

 そんなわけでランカシーレ王女が彼等とともに暮らし始めてから何度も太陽が昇ったり沈んだりしました。
 そして今日も今日とていつもどおりの朝がやってきました。
ランカシーレ「おはようございます、皆様! 今日も健やかに伸びやかに過ごしてまいりましょう!」
レビア「おはよう、ランカシーレさん! そしてパクリコンさんもおはよう!」
パクリコン「おはよう。……あのー、ところで寝室の部屋割りをそろそろ考え直さない?」
ヒジリ「おはようございます。考え直す気は今のところ私には無いですね」
パクリコン「そーかい」
ライキチ「おはよっす。パクリコン、昨晩も本当に何もしなかったんだな。ここまで来ると清々しいよ」
パクリコン「俺だって己に鞭打って我慢してるんだぞっ!」
ランカシーレ「おはようございます、ライキチさん。ところでパクリコンさんは夜の間何を我慢なさっていらっしゃるのですか?」
パクリコン「えっ、いや、その、……尿意、かな?」
ランカシーレ「生理現象を恥ずかしがる必要などございません。誰しも排泄をせねば生きていけないのですから」
パクリコン「ほんとだよ。本当にその通りだよ。ちょっと俺、恥ずかしがることなくそのへんでおしっこしてくる」
レビア「おしっこをするならするでいいけれど、少なくともこの家から50メートルは離れたところでやってね。この間窓の外覗いたらパクリコンさんが気持ちよさそうに放尿してるとこ見ちゃったんだから」
パクリコン「えっ!? あっ、いや、その、それは実にもうしわけなかった」
レビア「でも可愛かったよ」
パクリコン「えっ?」
レビア「可愛かった」
パクリコン「繰り返さないで」
レビア「可愛かったでちゅねー」
パクリコン「やめてえええっ!」
ランカシーレ「ぷすーくすくす」
 ランカシーレは小人たちとの暮らしにすっかり慣れていました。そしてさも当然のように、いつも就寝時にはランカシーレとパクリコンは同じ寝室で眠ることを続けていました。もっともこの習慣に反対しているのはパクリコンだけなので、少数意見の尊重という概念の存在しないこの森では今日も明日も明後日もパクリコンはランカシーレとともに眠らざるをえないことでしょう。
パクリコン「ねえ、おかしくない? 誰か俺の代わりにランと一緒に夜を過ごしてくれる人いないの?」
ヒジリ「いません」
パクリコン「そんな! 取りつく島も無い!」
ライキチ「じゃあ俺が代わってやろうか?」
パクリコン「いや、そういうんじゃなくてもっと根本的に問題を解決するためにだな……」
ランカシーレ「パクリコンさんは私のお守りをなさるのがお嫌なのでしょうか?」
パクリコン「そうじゃない! そうじゃないんだけれど……」
ランカシーレ「か弱い女の添い寝などといったくだらない事よりも、もっと刺激的で野性的な夜をお楽しみになりたいということでございましょうか?」
パクリコン「ちがうって! ちがうんだけれど! なんで分からないかなあ!」
ランカシーレ「えへへ、分かっておりますって」
パクリコン「ぜぇったい分かってないって! なんなら本当に分かっていないということを身を以って教えて……」
ランカシーレ「……」
パクリコン「……あげはしないけれど、……まあいいや。今日も頑張って働きます」
ランカシーレ「はい」
 そう言ってランカシーレは背伸びをしてパクリコンの頭を撫ぜました。満面の笑みを浮かべては満足そうに撫ぜるランカシーレを、パクリコンは苦々しい表情で見ていました。

 朝ごはんを食べ終えた七人の小人たちは仕事に出かけます。仕事といっても、追い剥ぎ業をする必要はもはやありません。なにしろ数十年遊んで暮らせるだけのお金が手に入ったばかりなのですから。
 なので彼等は薪となる木の枝を集めたり冬を越すに足る毛皮を集めたりしはじめていました。もちろん手に入れたお金を使って街で道具や食料を購入することも必要に応じて行いはじめていました。
 七人の小人たちが家を出るとき、決まってパクリコンはランカシーレにこう言いました。
パクリコン「いいか、ラン。俺等が出かけている間は、何があってもここを出ちゃだめだ。誰かが来ても絶対に出ちゃだめだ。分かったな?」
ランカシーレ「はい」
 ランカシーレはそのたびに従順な返答をしました。

 毎日小人たちはそれぞれ決まった仕事をこなします。ロンは薪集めを、ヒジリとライキチとラーとワイは狩りを、そしてパクリコンとレビアは街へ買い物を。
 ロンは植物についての知識が豊富で、どの木の枝がどのような用途に使えるか、はたまたどのような状態の木の枝が何に有用か、といった判断をとても的確に行えました。
 ヒジリとラーとワイは戦闘能力に長けた小人でしたので、大型の哺乳類を狩る際には先陣を切って戦っていました。彼等はフォースと呼ばれる特別な力を持っていました。ヒジリは格闘攻撃に特化したフォースを、ラーは火力攻撃に特化したフォースを、そしてワイは多彩な攻撃を制御するフォースに特化していました。三人は各々のフォースを活用して狩りを行っていました。またライキチは道具を作る才能に長けていたので、落とし穴をはじめ飛び道具や毒武器などの開発と設置を行っていました。
 しかし一番危険な仕事だといえるのが、パクリコンとレビアのやるべき『街で買い物をする』でした。なにしろ彼等は小人ですので、街の住人にそのことがばれてしまっては袋叩きに合ってしまいます。はじめは、小人たちの中で一番人間に背格好が似ているから、というだけの理由で選ばれたパクリコンとレビアでしたが、何度も街にこっそりと出かける回数を重ねてきたためかそれ相応の技術と度胸を身に付けていました。

 今日もパクリコンとレビアは街へ出かけます。今日の目的は香辛料を手に入れることです。香辛料は肉を新鮮なまま保存するために用いられる、非常に珍しいものです。なのでちょっとやそっとではなかなか手に入りません。
 パクリコンとレビアはフードですっぱりと頭を覆い、二人に特徴的な耳と髪の毛を隠しました。これでそう簡単には正体がばれないはずです。
パクリコン「よし。俺が店に入るから、レビアは店の外で見張っててくれ。何か怪しい奴が来たらすぐに知らせるんだ」
レビア「分かった! 気を付けてね!」
 レビアに見送られ、パクリコンは街の一角にある香辛料屋の扉を開いて入っていきました。

 うさんくさい装飾と埃っぽい空気の中で、パクリコンは香辛料の並ぶ棚を一瞥しました。パクリコンには香辛料に対する識別眼がありませんが、今まで獲得してきた度胸でこの場を押し切ることができれば幸いだと考えていました。
 パクリコンは店番をしていた恰幅の良い主人に声をかけます。
パクリコン「すまない。ターメリックとペッパーを1オンスずついただけないか?」
 主人は顔を上げて、面倒くさそうに返事をしました。
「許可証は持ってきたのか? 許可証が無きゃターメリックもペッパーもこれっぽっちも売ることはできない」
パクリコン「許可証? そんなものが必要だと今初めて聞いたな。国からのお達しなのかギルドの取り決めなのか、はたまた主人殿の気まぐれなのかをはっきりさせてくれないか?」
 パクリコンはくぐもった声をうなるように出しながら尋ねました。すると主人はむすっとした顔でこう答えました。
「残念ながら、国からのお達しだ。つい先日国のほうから、許可証を持たぬ奴には所定の物品を売るなという令が出てな。なんでも取り逃がした重犯罪者を捕まえるためだとさ」
パクリコン「ほう……それはいつごろの話だ?」
「ほんの二、三日前だな。もっともそんな令を出したところで、犯罪者なんてものはとっくの昔に遠くに逃げているってものにな……」
 主人がそうつぶやいたときでした。
「えぇ、国の悪口はそのへんにしといたらどうです?」
と店の隅から野太い声が響きました。パクリコンが振り返ると、そこにはフードをかぶったひょろ長い男がうずくまっていました。店の主人はパクリコンに言います。
「奴は役人だ。奴に言えば許可証を発行してもらえるらしい。とりあえずは許可証をもらってきたらどうだ?」
 パクリコンはそのフードをかぶったひょろ長い男が立ち上がるのを察知しました。そして一歩一歩パクリコンに近づいてくるのを背後に感じます。
「えぇ、そこの客。えぇ、許可証を貰いたければ、役所まできてもらえれば。えぇ、そんなに長くは取らせません」
 パクリコンはとっさに横に避け、ひょろ長い男に肩に手を置かれるのを防ぎました。
パクリコン「それには及ばない。失礼した」
 パクリコンは急いで店を出ようとします。
「えぇ、それには及ばない、と。えぇ、なるほど」
 ひょろ長い男の野太い声が嫌に響きます。パクリコンはなるべく嫌な考えを抱かないようにしながら店の扉を開けて外に出ました。

 レビアはパクリコンが一人で店から出たのを確認して、パクリコンのそばに近寄ります。
レビア「どうだった!?」
パクリコン「だめだ。許可証が無いから売ってもらえなかった。二、三日前にそういう制度が出来たんだってさ」
レビア「そうなんだ……。それと関係あるかどうか分からないけれど、ちょっと見せたいものがあるんだよ。こっち来て」
パクリコン「うん」
 レビアはパクリコンを連れて一つの立札の前まで行きます。
パクリコン「これは一体……!?」
 その立札にはこう書かれてありました。
『以下に描かれた重犯罪人は、我が国の王女を攫って逃走中である。そのため我が国では所定の物品の売買には許可証を得た者のみがその権利を得る。また重犯罪人および王女を見つけたものには金140オンスの褒賞を与える』
 そしてその立札には男の顔が描かれてありました。
レビア「これって……ひょっとして……」
パクリコン「ああ、間違いない。ランを殺さずに逃がしてくれた人のことだ。ランを殺していないのがバレたから逃げたのだろう。そしてこの人を捕まえるべく国はこんなお触れを出したんだ。その上……」
レビア「ランカシーレさんを保護するという名目で捕まえて殺すんだろうね」
 パクリコンとレビアは見つめ合い、無言のままうなずきました。
パクリコン「いずれにしても、この人はとっくに遠くに逃げたはずだ。関所なんかを通らずに国境を越える手段くらいは知っている身分だろうし。……となると」
レビア「危ないのはランカシーレさんってことになるね」
 パクリコンとレビアは再び頷き合いました。
パクリコン「このことを皆に知らせた方がいいな。今日は早めに切り上げて帰るとしよう。許可証が無いんじゃどのみち買い物なんてできないんだし」
レビア「そうだね」
 レビアがそう言ったまさにその瞬間でした。

「たすけてくれーっ!」

 男の悲鳴が響きます。
 何事かとパクリコンとレビアがあたりを見渡すと、広場にある小高い丘の上で一人の男が大勢の警官に捕まえられていました。
「町民よ、よく聞け!」
 警官長の声がとどろきます。
「この男こそが我が国の王女を攫い、命を奪おうとした重罪人である! この男はこれから拷問にかけ、王女の居場所を吐かせる! 我が国に背いたものはみなこうなるのだ!」
 多数の警棒の打擲音が鳴り、男は再び悲鳴を上げます。
パクリコン「行ってみよう!」
レビア「うん!」
 パクリコンとレビアは小高い丘に向かって駆けて行きました。

 パクリコンとレビアが小高い丘に駆けつけると、そこにはボロ布ひとつを纏った痩身の男が両手を鎖に繋がれていました。見せしめとして無防備で目立つように繋がれているためか、街の住人はその痩身の男に向かって罵声を浴びせかけたり石をぶつけたりしています。
「王女様を攫うだなんて最低な奴だ!」
「ひとでなし! お前のような奴は死んでしまえ!」
 街の住人の怒りは収まりそうにありません。痩身の男はただただ、
「ひいいっ! くそっ! くそーっ!」
と叫んでいます。その横で警官長が、
「この男が王女の居場所を白状するまで、ここに晒しあげつづける! この男が白状するのが先か、はたまた死ぬのが先か、……ククク、さあ吐け!」
と怒鳴っては警棒で痩身の男をぶちます。
 パクリコンは一歩近づいてその痩身の男をよく見てみます。あざだらけでボロ布に血をにじませたその痩身の男は、ただただ、
「ちくしょう! 俺は絶対に言わないからな! 誰が言うものか!」
と叫んでいました。
パクリコン「……なあ、レビア」
レビア「なに?」
パクリコン「この男は本当に『あの男』なのかな?」
レビア「立札の似顔絵とそっくりなのは確かだけれど……でも……」
パクリコン「うん……ちょっと気になるな」
 罵声を浴びせられている痩身の男の視界に入るようパクリコンは近づき、注意深くその痩身の男に尋ねました。
パクリコン「なあ、王女の居場所を吐きはしないのか?」
「誰が吐くかこの野郎ーっ!」
 その痩身の男は鎖に繋がれたままもがきつづけています。パクリコンはその痩身の男にさらに尋ねました。
パクリコン「王女の居場所ってことは……王女は生きているのか? お前がすでに殺したんじゃないのか?」

 その一言で、痩身の男の動きは止まりました。
 その痩身の男はゆっくりとパクリコンを見て、やがて口元をゆるませ、そして大声で叫びました。

「こいつだーっ! こいつが犯人だぞーっ!」
パクリコン「ええっ!?」
 途端に警官が集まり、パクリコンを取り押さえようともみくちゃにします。
パクリコン「離せ、この!」
レビア「何なの!? 離して!」
 しかし多勢に無勢、パクリコンとレビアは警官たちに縛り上げられてしまいました。そして警官長はパクリコンとレビアのフードを引きちぎります。
「やはりな」
パクリコン「何をするつもりだ! 俺達を縛ったところで何になる!」
 パクリコンは問いましたが、警官長はこう告げるだけでした。
「小人の住む森で王女は逃げた。ということは王女は小人の住む森にいる可能性が高い。当然小人が王女の行方を知っている可能性も高い」
パクリコン「バカ言うな! だからって俺達を縛り上げたところで何にもならないぞ!」
「何にもならない?」
 警官長は鼻で笑いました。
「お前たちはさっき言ったよな?」
「俺が王女をすでに殺したんじゃないか、ってよぉ!」
 先ほどの痩身の男が狂気に満ちた目で付け加えました。
パクリコン「……ッ!?」
「ちなみにこいつは警官でな」
「オトリとして犯人役をやってたってわけさぁー! お前らのように王女の行方を本当に知っている奴等をあぶりだすためになぁ! でもあっけないものだぜぇ! こうも簡単にはまってくれるとはなぁ! これだから小人って奴ぁ底が知れてるんだ!」
レビア「全部、あたし達をおびき出すための罠だったってこと……!?」
 レビアの問いに警官長も痩身の男も高笑いしました。
パクリコン「ぐっ……! だからってどうにもならんぞ! 俺もこいつも、王女については一切口を割るつもりはない! もはや失うものの無い小人は、死ぬほど痛めつけられようが白状なんてしないぞ!」
 しかしパクリコンの威勢も虚しく、
「心配は要らない」
「お前たちは王宮の地下牢獄でたっぷり拷問させられるんだからよぉ! あそこじゃ正気を保ってなんかいられないぜぇ!」
という言葉をあびせられ、パクリコンとレビアは罪人用の馬車に押し込まれました。


 一方その頃小人たちの森の自宅では。
ヒジリ「あの二人、帰ってくるのが遅いですね。もうお昼ごはんの時間はとっくに過ぎているというのに」
ラー「何かあったんじゃないのかってーの」
ライキチ「まあ街に行くということはこういうリスクがあるということだしな」
ワイ「そんな他人事みたいに言うななのさー。何かあったらおれっち達はおれっち達の全く知らない街に二人を助けに行かなきゃならないのさー」
ロン「……」
ライキチ「おい、ロン。お前も何とか言えよ」
 するとロンは重い口を開きました。
ロン「この時刻までに帰ってこないということは、二人に何かあったのは間違いない。だが……そうそうやすやすと陥落するような二人ではないことは皆がよく知っている通りだ。おそらく人目から逃れやすい夜を待っているか、もしくは遠回りになりはするが確実にここへ帰ってこられる道を選んでいるはずだ。今俺達にできることは、この居場所を守ることだ。少なくともパクリコンとレビアがここを目指して帰ってくる以上、俺達がここを離れるわけにはいかない。それから緊急事態においてはお互いの連絡を絶やしてはならない。単独行動は避け、極力この家の付近にいることが重要だ。それを踏まえたうえで、見張りのため交代で二人一組で裏にある樹の上で見張りを行うことにしよう。相手が敵であれパクリコン達であれ、何かあったらすぐ知らせる事。分かったな?」
「「「「「応ッ!」」」」」
 ロンはてきぱきと指示を下し、ラーとワイに見張りに就かせてライキチとヒジリに武器の準備とさせはじめました。


 罪人用の馬車が走り出して二時間ほど経った頃でした。
パクリコン「……今はちょうど王城付近の荒野を進んでいる頃だな」
レビア「……うん、周りに誰もいないのは確かだね」
パクリコン「……俺達は手足を鎖で縛られてはいるけれど、唯一の武器は縛られずに済んだ」
レビア「……あたしは準備できてるよ。いつでもいける」
パクリコン「……よし。それならやろう!」
レビア「うん!」
 レビアは反動をつけて身体の向きを変え、体の後ろに回された両手を馬車の先頭に向けました。
レビア「フォースの加護を」
パクリコン「我等に与えよ」
レビア「発動ッ! 刻印付与ディヒトゥング・ツシュス!」
 ドオゥッと轟音が響き、馬車がガタガタと音を立てながら大きく揺れます。
「なんだ!?」
「小人どもの仕業か!?」
 外で警官の声が交錯します。
レビア「正解! それじゃあ一発……刻印武器ディヒトゥング・ヴァッフェ!」
 ズドオオゥ、とレビアの両腕から太さ30センチほどの黒と黄色の入り混じった光束が放たれました。それは瞬く間に馬車の壁を突き破り、激しい爆発とともに御者警官ともどもを吹き飛ばしました。馬が馬車から解放されたため、馬車全体はガタンと音を立てて止まります。
パクリコン「よし、馬車が止まった!」
 静止した馬車の扉に対して、今度はパクリコンがフォースをぶつけます。
パクリコン「ぶったぎれろ! 虚動雷電ファールレシヒ・ドンネル!」
 パクリコンの右手から激しく電流が流れたかと思うと、馬車の扉はガチャリと音を立てて破壊されました。
パクリコン「今だ! 出るぞ!」
 パクリコンとレビアは縛られた両脚で地面に飛び降り、すかさず近くで伸びている警官に近づきました。
パクリコン「漁らせてくれよ!」
 パクリコンは警官の持ち物から鍵束を見つけ出すと、レビアの手足の鎖を留めていた錠を外しました。レビアは自由になった手でパクリコンの手足の錠を外し、彼を自由の身にさせます。
パクリコン「それじゃあ!」
レビア「逃げよう!」
 こうしてパクリコンとレビアは無事脱出に成功し、小人の住む森の方角へと駆けて行きました。


 小人たちの住む家でのこと。
ランカシーレ「ひょっとしたら私のために何か事件に巻き込まれたのでは……」
 ランカシーレは不安げな顔でロンに尋ねました。しかしロンは冷静に答えます。
ロン「案ずることはない。事件に巻き込まれる事なんて日常茶飯事だ。問題は、巻き込まれた時にどう対処するか、だ。だがパクリコンとレビアはこういったトラブルシューティングに長けている。戦闘能力も高い上、俺たちとは比べ物にならないくらいに人ごみに紛れたり人目をごまかしたりするのにも適している。あの二人なら帰ってくるさ」
 ランカシーレはロンのその言葉を信じるほかありませんでした。
 一方でライキチとヒジリは武器の準備をしながらぽつりぽつりと会話を交わしていました。
ライキチ「あの二人だから安心できる面もあるんだが……俺としては逆に心配だ」
ヒジリ「と言いますと?」
ライキチ「パクリコンは確かに冷静なときは堅実で有効な手段を的確に選ぶことができる。だがどうしても血走ってしまうことがパクリコンにはたまにあるんだ」
ヒジリ「……そう言われれば否定できませんね。特に今回のようにレビアさんを近くに置いている状態では」
ライキチ「そのとおりなんだ。パクリコンはレビアに手出しされることを極端に嫌う。俺も何故パクリコンがそこまでムキになるのかは知らないが、俺達の中でも特にレビアが何らかの危機に陥ることをパクリコンはことさら危険視し、同時に我を忘れてそれを回避しようとする。今のようにパクリコンがレビアと二人だけの状態でレビアがなんらかの危険にさらされたら、パクリコンとて平静を装って入られないだろうな……」
ヒジリ「ちゃんとやれてるといいんですけれどね……」
ライキチ「……」
ヒジリ「で、パクリコンさんがレビアさんの危機に対してムキになるというのは何故だか分からないとでも?」
ライキチ「……いや、まあ分かってはいるんだけれど、こんな時にわざわざ言いたくなかった」
ヒジリ「そうですか。まあ気持ちはわかりますよ」


 パクリコンはレビアとともに荒野を駆けてゆきます。
レビア「パクリコンさん! あれ!」
パクリコン「なにか来るな……!」
 すると道の向こうから、馬にまたがってやってくる数人の警官の姿がありました。
パクリコン「俺達の姿を遠くで監視していたのかもな……。ここはやるっきゃない! 奴等を突破するぞ!」
レビア「うん!」
 パクリコンとレビアは警官達の馬に向かって走っていきます。
パクリコン「フォースの加護を」
レビア「我らに与えよ」
パクリコン「一気にいくぜ! 必殺、虚動波動ファールレシヒ・アンダレーション!」
 警官達の乗った馬が二人を取り囲む前に、パクリコンは青い光に包まれた巨大な波動をうちつけました。それは空気中を音より早く伝播し、ズドガアアンという音とともに警官達を馬もろともなぎ倒します。
レビア「剣を抜かせる隙は与えない! ビタフォース発動、銃撃掃射シーセン・シュヴェープ!」
 レビアはフォースを頭上に集中させたかと思うと、狼狽している警官達全体に黄色と黒の光の弾丸を撃ち浴びせます。ズドドドドドオンという爆音とともに警官達は馬から転げ落ちて地面にもんどりうちました。
パクリコン「よし、いまのうちに抜けるぞ!」
レビア「うん、急いで……きゃあっ!」
 レビアは地に伏していた警官に足を掴まれて大きく転びました。
パクリコン「レビアッ!?」
 しかしパクリコンが駆けよるよりも早く、警官の一人がレビアの髪を掴んだままゆっくりと起き上がりました。
「この……腐れ小人がッ!」
 警官はレビアの腹部に激しく蹴りを浴びせます。
レビア「がは……っ」
 レビアはばたりと地にうずくまり、動かなくなりました。
パクリコン「レビアッ!」
「おっと動くんじゃねえ! こいつがどうなってもいいのか!?」
 警官は立ち上がり、レビアの頭をぐりぐりと踏みつけます。
パクリコン「……貴様……」
「ああん? 貴様がおとなしくそこで縄につきゃこいつの命までは取らねえよ」
 警官は罪人を縛る丈夫な縄を取り出しながら告げました。他の警官達もゆっくりと起き上がろうとしています。しかしパクリコンは聞く耳を持ちません。
パクリコン「……俺のレビアを……」
「ああん?」
 パクリコンはカッと目を見開きました。
パクリコン「俺のレビアをその汚い足で踏みやがったなッ!」
 パクリコンは両腕にフォースをたぎらせます。
パクリコン「ビタフォース発動ッ! 虚動格球ファールレシヒ・エヴァルトクーゲル!」
 パクリコンの両腕が巨大なフォースの球を形成し、目にもとまらぬ速さでそれは警官を薙ぎました。
 そこにはただ、ズプシュルッ、という音だけが残り、警官は大きく肉をえぐられ息絶えました。
パクリコン「残りの奴等もだッ! レビアに触るんじゃねえッ!」
 目の前で警官の凄惨な死を見た他の警官達がおびえる中で、パクリコンは手当たり次第に警官達をフォースで嬲っていきます。吐血が散り、肉の破片が舞う中でパクリコンはただただ己を忘れてレビアの周囲の生を奪っていきました。


 小人たちの住む家では、ランカシーレがヒジリとライキチに尋ねていました。
ランカシーレ「パクリコンさんはレビアさんと仲がおよろしいようでございますよね」
ライキチ「ああ、ランカシーレさん。といってもまああの二人は最初から一緒にいたからなあ」
ヒジリ「そうですよ。単にパクリコンさんが最初にレビアさんと出会ってここで暮らしはじめたってだけですし。そこに私たちが転がり込むことにはなったんですから、特に仲がいいといってもそれほどでもないと思いますよ」
ランカシーレ「……。パクリコンさんは最初にレビアさんと二人っきりでここでお暮しになっていらっしゃいました。あのパクリコンさんが、ですよ?」
ライキチ「……まあそれは」
ヒジリ「そうですね……」
 ライキチとヒジリは顔を見合わせます。ランカシーレはそれを見て納得したように続けました。
ランカシーレ「ですのでパクリコンさんとレビアさんが仲がよろしいのは理解し申し上げられます。ですが私が知りたいのは、何故パクリコンさんはそもそもレビアさんと暮らそうと思い立ちなさったのか、という点でございます」
ライキチ「……さあ?」
ヒジリ「そこまでは私も知りませんね……」
ランカシーレ「……」


 荒野を歩くパクリコンの姿がありました。その背にはレビアが負ぶさってあります。
レビア「ううーん……」
パクリコン「気が付いたか?」
 パクリコンは背中のレビアに声をかけました。
レビア「あっ、あれっ? あたし……なんで……? ……いててっ」
パクリコン「じっとしてな。割と派手にやられてたから、ダメージが残ってるはずだ」
 パクリコンはあやすようにレビアに言いました。
レビア「あの後パクリコンさんがあたしを助けてくれたの?」
パクリコン「まあな」
レビア「……あの警官全員を相手に?」
パクリコン「まあな」
レビア「ありがとう……」
パクリコン「……まあな」
 パクリコンは事務的な返答をするかのように答えました。
レビア「こうして負ぶさるのって、何度目だろうね。情けないことにあたしは憶えてない」
パクリコン「安心しろ。俺も憶えてないから」
レビア「憶えきれないくらいにあたしはパクリコンさんにお世話になったってことだよね」
パクリコン「あんまり喋るな。傷口が開くぞ」
レビア「うん……」
 レビアはパクリコンの背にそっと身体を預けました。パクリコンは歩くことによるゆさぶりがなるべくレビアに伝わらないように慎重に歩を進めていました。
レビア「ねえ。あたしとの約束を憶えてる?」
パクリコン「どの約束だ?」
レビア「あたし達が一番最初にした約束」
パクリコン「……」
レビア「パクリコンさんがあたしを守る代わりに、あたしがパクリコンさんの、っていう……」
パクリコン「喋るな。傷口が開く」
 再びレビアは口をつぐみました。しかしレビアはそれでもなおパクリコンの耳元でそっと囁いて続けました。
レビア「パクリコンさんがあの約束を反故にしたいっていうのなら、反故にしてもいいよ?」
パクリコン「喋るな。俺は喋る怪我人が嫌いだ」
レビア「だってパクリコンさん、どう見たってランカシーレさんのこと――」
パクリコン「だから喋るなって言ってるだろ。ここに置いてくぞ」
レビア「……でもパクリコンさん、あたしをここに置いていく気がまるで無いよね? たとえあたしが置いていけって言っても置いていかないよね?」
パクリコン「……」
レビア「置いていけないんだよね?」
パクリコン「……」
レビア「ねえ……」
パクリコン「……」
 パクリコンはふと歩の進みを止めます。
レビア「自分で作ったルールに縛られる必要なんて無いんだよ? 誰も幸せにならないルールになんて縛られる必要はないんだから。少なくともパクリコンさんはあのときの約束に縛られすぎだよ。……あんな約束をさせたあたしが一番バカだっただけなんだけれど……」
パクリコン「……」
レビア「……」
 パクリコンは再び歩み始めました。
パクリコン「俺は自分で進んであの約束をした」
レビア「……」
パクリコン「俺はあの約束を果たすために生きてきた」
レビア「……」
パクリコン「さらにいえば、あの約束をした君は決してバカじゃない」
レビア「でも……」
パクリコン「俺が一生で一度、最初で最後の約束をした相手ことをバカ呼ばわりされるのは、たとえそれが誰であれ腹が立つんだ」
レビア「……」
パクリコン「俺は絶対にあの約束を反故になんてしない」
レビア「……」
パクリコン「俺が言いたいのはそれだけだ」
レビア「……」
パクリコン「……」
レビア「ねえ、でもさ。あのときとここ数日とでパクリコンさんのやってることはまったく一緒だよ?」
パクリコン「……」
レビア「パクリコンさん、ランカシーレさん相手に全然手出ししてないんでしょ?」
パクリコン「だから何だって言うんだ」
レビア「あたしのときも何か月かかったと思ってんの? みんなにはひた隠しにしてきたけれど、あたしとあの約束をしてから最初にあたしを抱くまでどれくらいかかったと思ってんの? ヒジリさん相手のときなんて知り合って一週間たらずで抱いてたのにさ」
パクリコン「それで?」
レビア「……ランカシーレさんにもあたしのときと同じような話をしたんじゃないの? 君の過去をえぐるようなことはしたくない、だとか、守るべき相手に手出しはできない、だとか」
パクリコン「それが何だって言うんだよ。レビア相手とラン相手とでやってることが同じだからパクリコンは約束破りの酷い奴だし、そんな奴との約束なんて反故にしてしまったほうが清々する、とでも言いたいの?」
レビア「ちがうよ! 分かってるくせに、わざとそんなこと言わないでよ!」
パクリコン「……」
レビア「パクリコンさん、迷ってるんでしょ? どうやってあたし相手とランカシーレさん相手とを両立させたらいいか、とか、ランカシーレさんを前にしてあたしにあの約束を持ち出されたらどうしよう、とかそういうことをさ」
パクリコン「……否定はしない」
レビア「迷ってるんだったら、あの約束を反故にすればいいんだよ! そしたらもう迷わずに済むじゃん!」
パクリコン「後々反故にしてしまえるような約束だったら、俺はそもそもそんな約束なんてしない」
レビア「そんなこと言ったって、今は状況が違うでしょ!? あのときはランカシーレさんがいなかったけれど、いまはいるじゃん! 状況が変わったのに、意固地になって最初の意志を貫こうとしても苦しいだけだよ!」
パクリコン「状況なんて変わってない! 今も昔も同じだ!」
レビア「どこがよ!? 全然違うじゃない!」
パクリコン「……それでも一緒だ」
レビア「でも……!」
 レビアは言葉を失いました。しかしやがてパクリコンの背に身体の重みを預け、全てを理解したかのような声をもらしました。
レビア「ああ……。そう……」
パクリコン「……」
レビア「変わってないんだね」
パクリコン「ああ」
レビア「パクリコンさんって苦労しそうな性格してるよね」
パクリコン「否定はしない」
レビア「パクリコンっぽいよね」
パクリコン「同語反復だが、そのとおりだ」
レビア「パクリコンさんがパクリコンさんでよかった」
パクリコン「……」
レビア「ランカシーレさんとの関係もなんとかしなきゃね」
パクリコン「そうだな」
レビア「でも相手が王女様だったら、あたし、敵いっこないや。あたしに勝ち目がない」
パクリコン「それでも勝たせてやるって言ったら?」
レビア「……」
パクリコン「……」
 レビアはパクリコンの両肩に置いた手にぎゅっと力を込めました。
レビア「そういうことをさらっと言うんだね」
パクリコン「まあな」
レビア「……」
パクリコン「……」
レビア「あたし達の森が見えてきたね」
パクリコン「ああ」
レビア「早く帰りたい」
パクリコン「任せろ。レビアを背負うのは俺が一番得意だ」
レビア「うん、知ってる。だからお願い」
パクリコン「ああ」

(つづく)

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Author:パクリコン
ピチロの世界の住人。

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