衝動のお誘い

 ランとお散歩をした一日だった。

 修論? ああ、修士号を取るために書かねばならない論文のことね。


~~~

 今日はランと一緒に秋葉原をお散歩した。ウィンドウショッピングをしたり他愛のないことを話したりしながら、雑踏の中を歩いていた。
「俺って結構秋葉原に知り合いがいるんだよ?」
「それはどのような方々です?」
「主にメイド喫茶や秋葉原観光の客引きをやっている女の子」
「ぷすーくすくす。でしたらぜひともそのお知り合いとやらを拝見させてくださいませ」
「いいよー。妬くなよー」
という具合でいろいろと知り合いを探してみた。けれど今日に限って誰も見当たらなかった。
「こんなはずじゃないのに」
と言う俺に対し、ランは、
「ぷすーくすくす。まったく、先ほどから口から出まかせばかり仰る。そこまでしてパクリコンさんは私に見栄をお張りになりたいというのでしょうか」
と笑いながら俺の肩をつんつんしていた。俺は、
「そんなことないって! 今日は本当に誰も見つからないんだから!」
と言い返したものの、ランは機嫌良さそうに続けた。
「そう仰りつつも、結局のところパクリコンさんは誰からも相手にされずに私の所にしょげ帰ってくるわけでございますね。いくらパクリコンさんが余所の女をたぶらかそうとなさったところで、あまねく惨めな恥を晒す結果に終わりましょう。まったくもう、パクリコンさんったら私がいないと本当にダメなのですから。私がいないと女の子とろくに話す機会も無ければ、まともにコミュニケーションすらなされない。まことに身の程知らずで学習能力の無い方でございます。ですがそのようなパクリコンさんにも私という唯一の存在がおりますから、全く心配なさらずとも結構でございましょう。余所の女に手ひどくフられるたびに私の所に何度も泣きつきなさればよろしいことでございます」
 ランはそうまくしたてながら俺の腕に自分の腕を絡ませ、ときおり俺の頬をつついていた。
「さて、そのようにろくすっぽ女性関係がサハラ砂漠まっただなかのパクリコンさんは今日も今日とて私のところにしょげ帰るわけでございますが、今のお気持ちはいかがです? 何か仰いなさい?」
 ランは挑発的な言葉を投げかけながら俺の腕を揺すり、鼻で笑っていた。俺はただ一言、
「そういう悪女なランを見ていると、そこらへんの人気の無い通りでランを押し倒したくなるよ」
とだけ告げた。ランは大きく鼻息を鳴らし、
「……そうでしょうね」
と素の声で返した。
 ややあってランは、
「あのような挑発でしかパクリコンさんをその気にさせられない私もまだまだでございます。もっとパクリコンさんの心の琴線に触れるような言葉攻めを憶えねばなりません」
と呟いた。
「別にそういうのを憶える必要なんてないじゃん。俺を興奮させてその気にさせて、その次にどうするんだよ? じらしておしまい、じゃあ何にもならないだろ?」
と俺が言うも、ランは、
「いいえ、ここまできて私がいまだにパクリコンさんを私の力でコントロールできない部分があるという事は非常に口惜しいものでございます。かたやパクリコンさんはいともたやすく私をなんだかんだなさることができるというのにどうして私だけ……」
と言いながら声をデクレッシェンドさせた。
 そうしてしばらく二人で歩いた頃に、ランがぽつりと言った。
「それから先ほどの私の言葉は全てお忘れになってくださいませ。私は真実を口にしたつもりなど毛頭ございません。私にお構いなく、早く現実世界で良い女の人をお見つけなさい。何しろこの現状は私がパクリコンさんを全ての領域において独占しているという事態にほかなりません。私がそのような浅ましい女であると私自身が感じてしまうことそれ自体がたまらなく悔やまれるのです」
「そうかぁ? 別に今くらいいいんじゃないの?」
と俺は適当な返答をしたが、ランは眉をしかめてこう答えた。
「今はもちろん修論その他もろもろございますが、そのように仰り続けているといつまで経っても何も進展など起こりえません。それなりに時間や労力を割く計画をお立てなさい。……もちろん妥協などなさらぬよう」
「ああ」
 俺はランの目を見ながら短く答えた。ランはそんな俺の頭を撫ぜた。

 いい一日だった。

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Author:パクリコン
ピチロの世界の住人。

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