スーパーパクリコンブラザーズ8-2-2

 パクリコンとレビアは石畳の廊下を進んでいった。

 蝋燭が灯された廊下を歩くにつれて、響く足音が次第に強まっていった。パクリコンが足元を見やると、石畳の表面の摩耗が薄れてきていることが見て取れた。
 レビアはわざと大袈裟な足音を鳴らせつつ、
「案外ここに来た人って少ないんだね」
と言った。パクリコンはそれを聞いてんんっと呻いた。
「だろうとは思うけれど、そんなに第一の難問って難しいものなのかな。そりゃあ容易ではなかったけれど、皆が皆第一の難問で終わってしまうようなものでもないんじゃないかな」
「んー、それはそうなんだけれど」
 パクリコンの言葉にレビアは唸りながら答えた。
「そもそもあたし達に課せられた第一の難問ってさ、原理的に二人以上の男女に対して課せられるものだよね? そりゃあ二人以上の男に課すこともできるけれど、ともかく限定的すぎるとは思ったんだよ。となるとあたしたちに課せられた難問はあたし達専用に作られたもののように感じられるんだ」
「専用に作られた……? 専用の難問をこれまでここの神様は個別に作ってきたってこと?」
 パクリコンの問いにレビアは再び唸った。
「そう言われると苦しいんだけれど……。でもさ、普通に考えても男女にとって『セックスしろ』という難問は難問と呼べるものじゃないよね? だって世間の男女の皆さんは喜んでセックスをしているわけなんだしさ。その中の数少ない例外としてあたしとパクリコンさんのような関係があった。そしてそんなあたしとパクリコンさんに対してここの神様は『セックスしろ』という難問を課した。ということはやっぱりあたしたち専用の難問だったんだろうと思えるんだよ」
「それはまあ……そうだなあ」
「ともかく」
 レビアはパクリコンのほうを振り向いて言った。
「相手がここへの訪問者一人一人に対してピンポイントで狙うような難問を出してくる、って可能性はとても高い。でもそれは、決して解けないわけじゃない、ってことも意味している。絶対に解けない難問を出すのだったら、個別に難問を選ぶ必要なんて無いしね。だから大丈夫だ。あたし達はここを突破できる。そう考えよう」
「そうだな」
 パクリコンがそう答えたときに、二人は大きな扉の前に辿り着いた。
「ここだね。……行くよ!」
「ああ」
 レビアとパクリコンは第二の難問の部屋へと入っていった。

 そこは再び直径五メートル程度の円形の部屋だった。ただ第一の難問の部屋と異なるところは、部屋の中央の台座に剣が一振り置かれてある以外何も存在しないという点であった。壁に周期的にともされた蝋燭の灯りと不自然な香りの中で、二人は難問を待ち受けていた。
 部屋の扉が重い音を立てながら閉じられた。おそらくは二度と開かれることは無いだろう。部屋のどこかにある出口を開くためには、ここで難問を解くしかない。
 そう身構えしていたパクリコンは、突如として後頭部をガツンと殴られたかのような痛みを覚えた。
「いっつつつつつ……」
 頭をさすりながらパクリコンはレビアに問うた。
「ねえ、また殴られたような痛みがあったね」
「ううん」
 レビアは否定的な返答を為した。
「あ、そう……」
 パクリコンは(ひょっとして今度は俺だけでなんとかしなきゃならないのか……?)と思いながら責任の重さを感じ取っていた。
 蝋燭の灯りがゆらりと大きく動くのを見て、パクリコンはレビアに言った。
「結構不気味だよね、ここ」
「べつに」
 レビアからは再び否定的な返答が寄越された。
「冷静だなあ。ほんとレビアは強いよな」
「普通だよ、こんなの。当たり前じゃん」
 レビアの声は驕り高ぶったものであったが、パクリコンは軽く息を吐いて言葉を返した。
「さすがだよ。レビアがいてくれると心強い」
「当然」
 レビアの返答に再びパクリコンは威圧感を覚えたが、それでもなおレビアの隣に立ったまま(難問はまだかなあ)と待っていた。
「ここに剣が置かれてあるけれどさ、難問に使うのかなあ」
「そりゃそうだよ」
 レビアの返答に再びパクリコンは言いようのない圧迫感を抱いたが、それでもなおレビアの傍を離れなかった。パクリコンはふーっと息を吐き、レビアに問うた。
「レビアがいてくれて俺は本当に助けられたよ。ここまで来られたのはお前のおかげだ。ありがとな。ここの難問も二人でかかれば解けそうな気がする」
 しかしパクリコンの言葉にレビアは淡々とこう返した。
「ほんとだよね。あたしがいなかったらどうなってたことやらだよ。むしろパクリコンなんて邪魔だったくらいだし」
 パクリコンはそれを聞いてレビアのほうを見た。しかしレビアは、
「あたしは助けなんか要らない。むしろ助けが邪魔になることだってあるんだもの。それが、パクリコンなんだよ」
と言った。その瞬間、パクリコンは我を忘れてレビアの服を乱雑に掴んだ。
「なによ」
 レビアは驚いたような表情で続けた。
「さっきの部屋の続きやる? もう一回やってもいいんだよ?」
「やるわけないだろ! レビアも少しは言葉を選べ!」
 パクリコンはレビアが奥歯を噛みしめて言葉を探しているのを察した。レビアは呼吸をするのも忘れて告げた。
「やろうよ。せっかくなんだし。べつにあたしの言葉でパクリコンがどう思おうと知ったこっちゃないし、せっかく手に入ったパクリコンとセックスできるならいくらでも何でも言っちゃうけれどさ」
「てめぇな!」
 パクリコンはまたも乱暴にレビアの襟首を掴みあげた。少しだけ身長の高いパクリコンはレビアの身体をやや宙に浮かせた。
「レビア、お前ってそういう奴だったのかよ。俺のことをそういうふうに思ってのかよ!? ただ俺を奪い取るためだけにお前はランに近づいていたのかよ!?」
「悪い?」
 レビアの口調からはまったく悪びれた調子を感じ取れなかった。
「そうかよ!」
 パクリコンはレビアの襟首を離してレビアを突き飛ばした。勢いよくレビアは尻もちをつき、無防備な姿をパクリコンの前に晒した。
「レビア。一つだけ訊いていいか?」
 パクリコンは告げた。
「レビアは俺とランの仲を引き裂きたいがためにこの旅についてきたのか?」
 レビアは数秒ほどパクリコンの目をじっと見据えていたが、やがて言葉を口にした。
「当たり前だよ」
 その言葉を聞くや、パクリコンは落胆の息を吐いた。
「見損なったよ、レビア」
 パクリコンは目の前に無防備な姿をさらしているレビアに対して告げた。
「俺はお前のことを買いかぶりすぎていた。なんだよ、俺とランとの仲を引き裂きたいがために来たのかよ。ふざけるのもいい加減にしろよ。俺を……俺とランを何だと思っているんだよ」
 レビアは身を起こそうと体をよじった。
「動くな!」
 レビアはビクッとなった。そんなレビアの前で、パクリコンは部屋に置かれていた剣を手に取った。香水の匂いが鼻にまとわりつくのをレビアは感じた。
「レビア。もう一回だけ訊く。お前にとって俺やランは何なんだ?」
 レビアは再び困ったような顔で悩み、そしてパクリコンに告げた。
「バッカじゃないの」
「レビア!」
 パクリコンは剣を片手に、表情を浮かべずにいるレビアに向かって吠えた。
「目を覚ませ! どうしてそんなことを平気で言えるんだ!」
「言えるよ。あたしだもん」
 レビアは醒めた声でそう告げた。パクリコンは怒りに肩を震わせながら、剣の切っ先を床にたたきつけた。石畳がわずかに欠けた。
「最低だよ。君って奴は、ほんとうに」
「どっちが最低なんだか」
 レビアの抑揚の無い声を聞いて、パクリコンは剣を石畳の隙間に突き刺した。苦々しい表情でレビアを睨みつけながら、レビアをどうしてやろうかと考えている目をしていた。そんな中でレビアは困ったような顔で、
「あたしの目を見ないで」
と言った。
「頼まれなくても見ねぇよ!」
 パクリコンは壁にゆらめく蝋燭に目をやり大きく息を吐いた。
 そんなパクリコンをしばらくレビアは眺めていた。それは不思議そうな顔であり、悩んでいる顔でもあり、また考えている顔でもあった。香料に匂いがただよい、ゆらめく蝋燭の炎によって二人の影が躍る。やがてレビアは一つの挑戦的言葉を発した。
「何か喋って」
「これ以上何を喋れって言うんだよ!」
 パクリコンはレビアのほうを見向きもせず、そう怒鳴り返した。
 その言葉を聞いて、レビアはふと微笑みを浮かべた。
 レビアは立ち上がり、パクリコンに一歩近づいた。パクリコンはビクリとなり、剣を抜いて構えた。
「いいよ。剣を、持った、ままでも」
 レビアはたどたどしく言葉を口にした。
「今更俺を騙そうったって、そうはいかないからな!?」
「……ううん。そんな、つもりは、ない」
 パクリコンの言葉に対して、レビアは冷静だった。
「パクリコン、あたしの、言葉を、聞いてちょうだい」
「……なんだよ?」
 レビアはわずかに笑みをもらしながら、言葉をぎこちなく続けた。
「いままでの、言葉は、ぜんぶ、忘れて」
 レビアの言葉が響き、部屋はしんとなった。
「あたしは、今まで、嘘を、言わされてきた」
 レビアの言葉にパクリコンは剣を持って身構えた。
「いい加減にしろ! お前がどう言おうと、お前はさっきから俺とランの仲を引き裂くためにここまでやってきたって言ってたじゃないか!」
「うん、そう」
 レビアは言葉を繋げた。
「でも、それは、あたしが、言わされてきた、嘘なの。あたしが、言った、言葉と、正反対の、意味になるよう、パクリコンに、聞こえてた」
「……えっ……」
 パクリコンは虚を突かれたかのようにレビアの目を見た。レビアは生唾を飲みこんで続けた。
「だいじょうぶ。今はもう、嘘じゃない」
 レビアは荒い息を抑えながら、パクリコンに告げた。
「その証拠に、今あたしは、思ってることを、言えてる。パクリコンと、話が、できてる。パクリコンは、分かって、くれてる」
「レビア……」
 パクリコンは剣を構えるのも忘れてレビアの言葉に聞き入った。
「あたしは、いま、パクリコンと、いっしょにいる。だから、平気。何も、心配なんて、要らない。こんなふうに、思えたのは、うまれて、はじめて。だって、相手が、パクリコン、だもの。あたしは、パクリコンさんを、信じてる。友達だもの。仲間だもの。……好きだもの」
 レビアの言葉はとぎれとぎれではあったが、パクリコンがまさに今まで信じていたレビアの像そのものを写していた。レビアは深呼吸を挟みながら続けた。
「きっとね、正反対の、言葉が、聞こえていたのは、難問のせいだ。こんなときに、剣があったら、仲違いするに、決まってる。傷つけあうかも、しれない。殺し合うかも、しれない。でも、あたし達は、そうならない。だって、あたしと、パクリコンだもの」
 レビアの言葉にパクリコンは無意識的に頷いていた。レビアの瞳にはゆらめく蝋燭の炎が映っていた。レビアは安堵した笑みをたたえながら続けた。
「だからね、パクリコン。ここの、難問を、突破するには、ね……」
 そのときだった。パクリコンの頭に鈍痛が走り、目の前が一瞬暗くなった。
「いっつつつつつ……」
 パクリコンは後頭部を押さえながらレビアの言葉を待った。するとレビアの言葉はこのようなものとなっていた。
「痛くなかった。何も、殴られたような、感じがなかった。この難問を、終わらせないためには、あたしが、正反対の言葉を、言わなかったらいい。あたしはパクリコンを信じてないし、突破できると思わないけれど、二人ならきっと何にもならないはず……」
「レビア! レビアってば!」
 パクリコンは上気した声でレビアに駆けより、レビアを抱きしめた。
「もう元に戻ってる! そのままの言葉になってる! ここの難問を解くだなんて、さすがはレビアだ! 君のおかげだ!」
「ほんと……? もう大丈夫?」
「大丈夫大丈夫! さっきので元通りになったんだ!」
「そうかあ……よかったぁ……」
 レビアはその場にへたり込んだ。
「一時はどうなるかと思ったんだよ。なんだかあたしとパクリコンさんとで会話がかみ合わないし、あたしの言葉に対してパクリコンは引っかかってたし。でもようやく分かった。ああー、助かったよ」
「助かったのは俺のほうだよ! レビアがいなかったらこんなからくり解けやしなかった! 君のおかげだ! 本当にありがとう!」
「……うん、どういたしまして」
 レビアはただただパクリコンに頬擦りされるがままにあった。
「でもパクリコンがあたしの立場だったら、同じように解いてたと思うんだけれどな」
「分からない。分からないけれど、少なくとも君みたいにスマートに解決できる自信は無いよ。でも君がいてくれたから助かったんだ。ありがとうな、レビア」
「……うん……」
 レビアはパクリコンに撫ぜられつつ、その温かさに浴していた。
 そのとき部屋中に低い声が響き渡った。
「第二の難問、正答。次に進められたし」
 壁の一部と思われていた箇所が開き、パクリコンとレビアは立ち上がった。
「よし、それじゃあ最後の難問に行くぞ!」
「うん!」
 二人は手を繋いで立ち上がり、第三の難問のある部屋へと駆けていった。

(つづく)

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

パクリコン

Author:パクリコン
ピチロの世界の住人。

最新記事
最新コメント
リンク
FC2カウンター
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
FC2 Blog Ranking