ガラスの橋の女王

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 ランカシーレ女王はガラス製のつり橋を渡っていた。水色のドレスに紺色のトレーン、フリルで象られた桃色のガウンを羽織ったランカシーレ女王はガラスの橋にハイヒールの踵を響かせながら、優雅に歩を進めていた。誰かがガラスの下からランカシーレ女王の姿を見上げれば、ランカシーレ女王の下着があらわに見えることだろう。ランカシーレ女王はこの世で最も高貴で優美なその下着を見せつけることと引き換えに、この世のすべての支配権を掌握していた。
 一陣の風が吹き、ランカシーレ女王のガウンがはためく。そっと手でガウンを押さえながら、ランカシーレ女王は己の完璧な優美さを保った。
 ランカシーレ女王が今身に着けているパニエは、これまで国中の誰も手に入れたことのない大きさのものであった。それゆえに扱いが難しく、下手にパニエを持ち上げようものならたちまちパニエがたわんでしまうほどであった。したがってたとえドレス捌きに長けた貴族の婦人であっても、そのパニエを身に着ければたちまちたかだかパニエをわずかにたくし上げて一歩一歩慎重に歩くだけで精いっぱいになったことだろう。
 しかしランカシーレ女王はまさにそのパニエを身に着けたまま、まったくドレスをたくし上げずに歩いていたのだった。パニエやドレスを完全に我が物としているランカシーレ女王にとって、いかなるパニエやドレスであろうともランカシーレ女王自身の優美な動きを妨げるものではなかった。しかもランカシーレ女王はトレーンやガウンといった扱いの困難な裾の長い衣をも同時に着こなしていた。全てはランカシーレ女王の女王たる身分を保証するものであり、同時に今まさにガラスの橋の上で女王たるもっとも高貴な女性が君臨していることを意味していた。
 誰かの呼び声を聞いたランカシーレ女王はふと振り返った。するとガラスの橋のたもとには、今国中で探されている反乱軍の男の姿があった。彼はみすぼらしい恰好をしていたが、ぎらつかせたその両目は確実にランカシーレ女王の身体を狙っていた。
 ランカシーレ女王は身の危険を感じた。急いでここから逃げなければ、という思いに駆られながら、ランカシーレ女王は気づかれないようにドレスをパニエごとたくし上げて走って逃げようとした。
 しかしランカシーレ女王の白磁のような手の労も甲斐もむなしく、ランカシーレ女王はパニエをたくし上げることはできなかった。なぜならガウンやドレスの絹の布地が厚いため、パニエのワイヤーがどこにあるか分からなかったからだ。確かにガウンやトレーンを後ろへ追いやりドレスだけをたくし上げれば、パニエのどこを掴めばいいか分かったことだろう。しかしそれはランカシーレ女王の美意識に反した。いついかなる時でも女王は女王たらねばならない、というランカシーレ女王の矜持がそれを許さなかったのだ。
 ランカシーレ女王は速足でその場から去ることを決めた。男がいないたもとに向かって、一歩一歩小刻みなステップでできるだけ速く歩を進めていった。しかしランカシーレ女王の心に焦りがあったからだろうか、やがてランカシーレ女王は自らのドレスの裾のフリルをハイヒールで踏んでしまった。その過失はランカシーレ女王自身の動きを束縛してしまう。豪奢なドレスというものはその裾を一度踏んでしまうと、二度三度と裾を踏むはめになる。ガウンやトレーンはその場でランカシーレ女王の歩みを待っているものの、ランカシーレ女王にできることといえばたかだかその場でハイヒールに絡みつくドレスの裾のフリルを避けようとすることくらいであった。
 やがてランカシーレ女王は背後に気配を察した。その瞬間ガウンの前留めは強引に引きちぎられ、トレーンの留め具ははじきとんだ。ランカシーレ女王の乳房があらわになったかと思うと、すかさず男の乱雑な手がその豊満な両乳房を鷲掴みにした。
 ランカシーレ女王はあ叫び声をあげようとしたが、その代わりに口から洩れ出でたのはまさに己の身体を狙われんとするか弱い女性の哀れな喘ぎ声であった。

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