スーパーパクリコンブラザーズ 8-3-3 後編

『スーパーパクリコンブラザーズ 8-3-3 後編』
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 パクリコンはレビアをことさら強く抱きしめた。
「あんなもの気にするな。答えが見つかればいい、それだけの話なのだから」
「うん……」
 レビアはパクリコンの中で小さく答えた。今のパクリコンにできることは、そんなレビアを抱きしめることだけであった。
 パクリコンは神像を見上げながら、忌々しげにつぶやいた。
「にしてもこんな手口でくるとはなあ。昔の言葉なんて誰も知らないし、俺達はそんな言葉を使ったことすらないんだから」
「そうだよね……」
 パクリコンはレビアの頭を撫ぜた。部屋の隅にまたも直方体の大理石が落ちてきた音をなるべく耳に入れないようにしながら、レビアの心臓の音に耳を傾けていた。脈打つその鼓動は、まさにパクリコンのそれと運命を共にしていた。
 パクリコンは優しい口調で、
「言葉でのみ解決される難問なら難問じゃない、と最初は思ったけれど、そんなことなかったなぁ。やっぱり難問は難問だった。日頃俺達が接している人たちの中で生じる問題も難問だけれど、それらは何らかの形で言葉で解決できるものな」
「うん……」
 パクリコンは二つ目の難問を思いかえした。自分の言葉があべこべになってレビアに聞こえるという事実は、いまだなおパクリコンをして戦慄せしめている。ここの神ならどんなことでもやるだろう。それこそ人の生命や精神といったものをどれだけ蔑ろにすることですらも。
 パクリコンはレビアの背中を撫ぜながらつぶやいた。
「アテレースとマセレースのどちらが「はい」でどちらが「いいえ」なのかを見極めるだけでも三つの質問で事足りるかどうか分からないというのに、一体どれだけ複雑なことを尋ねたらあの神像の名前を言い当てられるんだろうな」
「……」
 レビアはパクリコンの言葉を聞いてふいに身体をこわばらせた。
「あのうち一つは適当な当てにならない返事しかしないんだし、三つの質問で三神像の名前を当てるのは……ひょっとしたら……」
「ねえ」
 レビアは勢いよく顔を上げてパクリコンに言った。レビアの頭蓋がパクリコンの顎に直撃して、パクリコンはよろめいた。
「ご、ごめん、大丈夫!?」
「大丈夫なものか! あの大理石の塊が俺等の真上に落ちてきたらおしまいなんだぞ!?」
「いや、そうじゃなくって……」
 パクリコンはレビアの頭を撫ぜて告げた。
「まあ俺の顎の事は気にするな。それよりも……何?」
「あのね」
 レビアはひとつひとつ考えを整理するかのように、パクリコンに言った。
「アテレースとマセレースのどちらが「はい」でどちらが「いいえ」を意味するのかって、本当に分からなきゃいけないのかなぁ?」
「えっ……そりゃあだって……」
 パクリコンは反駁するための言葉を探したが、見つからなかった。レビアは続けた。
「ねえ、パクリコンさん。もう一回質問ごっこをしてもいい?」
「いいよ。何でもやってみて」
 レビアの催促にパクリコンは応じた。
「じゃあまずは、正直に質問に答えてね」
「うん」
「それから返事には「はい」か「いいえ」じゃなくて、「エー」か「ビー」で答えてね」
「えっ?」
 パクリコンは戸惑った。レビアは補足を付け加えた。
「「エー」か「ビー」のどちらかが「はい」でどちらかが「いいえ」の意味であれば構わない。オーケー?」
「お、おーけー」
「よし。じゃあやってみるね」
 レビアは大きく息を吸った。
「「パクリコンさんはあたしを愛している?」……という質問に「エー」と答えますか?」
 パクリコンは思考を展開させた。今パクリコンは「エー」を「いいえ」の意味で定義している。すなわち、「パクリコンさんはあたしを愛している?」の質問には「はい」を意味する「ビー」で答えねばならない。ゆえに「「エー」で答えますか?」という質問には「いいえ」を意味する、
「エー」
と答えることになる。レビアは軽くうなずいて、言った。
「よし、じゃあ次。今度は全部嘘で答えてね」
「うん」
「「パクリコンさんはあたしを愛している?」……という質問に「エー」と答えますか?」
 まったく同文の質問である。同様に考えると、まず「パクリコンさんはあたしを愛している?」に対しては嘘を吐いて「いいえ」と答えるべきである。「いいえ」を意味する選択肢は「エー」である。したがってそれに対し「「エー」と答えますか?」という質問に対しては、嘘である「いいえ」すなわち、
「エー」
と答えることになる。
 パクリコンは「あれっ?」と呟いた。レビアはその反応を確認して、パクリコンに頼んだ。
「パクリコンさん、もうちょっとだけいいかな? 今度は、さっきと「エー」と「ビー」の定義を逆にして、正直に答えてみて」
「うん、分かった」
 パクリコンは快諾した。
「「パクリコンさんはあたしを愛している?」……という質問に「エー」と答えますか?」
 同文の質問であるが、その意図は明らかだ。先ほどとの違いを確認するためだ。
 今のパクリコンは「愛しているかどうか?」について、「はい」と答えるべきである。したがって「はい」を意味する「エー」で答えなければならない。したがって「「エー」と答えますか?」という質問に対しては「はい」という答え、すなわち、
「エー」
と答えることになる。
「次。今度は嘘で答えてね。「パクリコンさんはあたしを愛している?」……という質問に「エー」と答えますか?」
 愛していることに嘘で答えるならば「いいえ」、すなわち「ビー」とパクリコンは答えなければならない。これは「「エー」と答えますか?」という質問に対しての答えが「いいえ」となる。しかし今は嘘を吐かなければならないので、結局は「はい」を意味する、
「エー」
と答えることになる。
 レビアは、
「よし、これで半分は確認できた」
とパクリコンに言った。
「半分? どういうこと?」
 パクリコンは訝しげにレビアに尋ねた。
「今は「パクリコンさんはあたしを愛している?」という、いわば「はい」が答えになる質問で試してみたんだよね。だから次は答えが「いいえ」となるようなパターンでやってみようか」
「うん、そうだね。また四回ほどやれば何か分かるかな」
「まぁ四回もやらなくていいと思うけれどね」
「えっ?」
 パクリコンはレビアの言葉に驚いた。
「なんで?」
「まあまあ、とりあえずやってみようよ」
「うん……」
 部屋の一辺が大理石で埋め尽くされ、二辺目に大理石が落下し始めた。しかしパクリコンはレビアの言葉を頼りにすることで、己の為すべきことに集中した。
「今度は正直でも嘘吐きでもどちらでもいい。自由にパクリコンさんが決めていいよ。「エー」と「ビー」のどちらが「はい」でどちらが「いいえ」なのかもパクリコンさんが決めていい。じゃあいくね」
「うん……」
 パクリコンはレビアの言葉に素直に従い、嘘吐きであり、かつ「エー」を「いいえ」の意味として定義して答えることにした。
「「パクリコンさんはあたしを愛していない」……という質問に「エー」と答えますか?」
 パクリコンは再び思考を展開させた。愛していない、に対しては嘘を吐いて「はい」と答えるべきところである。したがって「ビー」と答えればよい。なので「「エー」と答えますか?」という質問に対しては嘘を吐いて「はい」と答えることになる。つまり、
「ビー」
「ビー」
 パクリコンの声とレビアの声が重なった。
「あれ!? なんで俺の答えが分かったの!? 俺は正直なのか嘘吐きなのか、それに「エー」と「ビー」のどっちがどっちなのかをまだ君に言ってないのに!」
「そりゃあ分かるよ。だってパクリコンさんが正直であろうと嘘吐きであろうと、はたまたどちらを「エー」と定義しようと、答えは「ビー」になるんだもん」
「なんで!?」
 部屋の中の壁に沿った辺は全て大理石によって埋め尽くされた。部屋の中央部にも次第に落下し始めている大理石の轟音に負けぬよう、レビアは落ち着いた口調ではっきりと答えた。
「だってさっき四巡させた質問にも全部同じ答えが為されたじゃん。ということは、今回の質問にも全部同じ答えが為されてしかるべきなんだよ。なのであたしは予め「正直かつ「エー」が「はい」の意味」として推測したのと同じ答えを言ったの。結果は……まあ聞いての通りだよ」
「それも……そうなのか」
「というわけでね」
 レビアはパクリコンに抱き着いた。レビアの腕がパクリコンの首に絡まる。
「パクリコンさん。これで最初の戦略が明らかになったよ。つまり……この手法を使えば、どれがランダ神なのかを言い当てられる!」
「ほんと!?」
「うん!」
 レビアは明るい声で答えた。レビアはパクリコンから身体を離し、パクリコンの手を取って神像の前に走っていった。
「大理石が落ちてくる頻度が早くなってる。そろそろ決着を付けないとね」
「決着……付けられるの?」
「まあ任せておいてよ」
 レビアとパクリコンは玉座の前に立った。レビアは声を荒げて、神像に向かって叫んだ。
「真ん中の神像に問う! 「右端の神像はランダ神であるか?」という質問に「アテレース」と答えるか!?」
 レビアの声が神殿内に響き渡った。落下する大理石の塊が作る破砕音が充満する中で、何故かその声だけははっきりと聞こえた。
「アテレース」
 真ん中の神像は答えた。
 レビアはパクリコンのほうを向き、小さな声で喋った。
「つまり、真ん中の神像の答えは「はい」だよ。ということは、ランダ神の候補は右端の神像か、もしくは真ん中の神像のどちらかになる」
「そうか……この答え自体がデタラメかもしれないもんな。じゃあ左端の神像はランダ神じゃないってことか」
「そういうこと! 次! 左端の神像に問う!」
 大理石の塊が落ちた際の衝撃で欠けた破片がパクリコンのところまで飛んでくる。そのようなことに気にもかけず、レビアは問うた。
「「右端の神像はランダ神であるか?」という質問に「アテレース」と答えるか!?」
 レビアとパクリコンは神像の答えを待った。ややあって神像は、
「マセレース」
という返答を為した。レビアはパクリコンのほうを見やり、笑みを浮かべながら告げた。
「よし! 返答の意味は「いいえ」! つまり、これで右端ではなく真ん中の神像がランダ神であることが分かった!」
「そうか……! だったら最後にすべき質問は、両端の神像のどっちがトゥエル神でどっちがパロ神かを見極めるための質問!」
「そのとおり! じゃあ最後の質問!」
 神殿の部屋には、もはや残すところ大理石四つ分ほどのスペースしか残されていなかった。レビアは声をあげて叫んだ。
「左端の神像に問う! 「あなたはトゥエル神であるか?」という質問に「アテレース」という答えるか!?」
 大理石の塊がレビアとパクリコンの背後に落ちた。その直後、神像は、
「マセレース」
と答えた。すなわち答えは「いいえ」だ。
 レビアはすかさず叫んだ。
「名付けよう! 左端の神像の名はパロ神! 中央の神像はランダ神! 右端の神像はトゥエル神! これがあたしたちの答えだ!」
 レビアの声が神殿内に響き渡った。
 そのときだろうか、ふとパクリコンは大理石の塊が落ちてこなくなったことを知った。レビアはパクリコンのほうに向き、
「正解だってさ」
と言って抱き着いた。
 パクリコンはレビアを抱きしめ、
「さすがだ、レビア。本当に君のおかげだ。君がいてくれたから、俺達はここまで来られた。たまらなく感謝している」
「いいってのに、そんなの。お互い様だってば」
 レビアはパクリコンの胸の中でもごもごと言った。
 そんな二人に、神像が呼びかけた。
「見事、真の名を言い当てた汝らを天上人と認め、我らに具申することを許可しよう」
 パクリコンはレビアを身体から離し、神像のほうに向いて告げた。
「天上人だと認めなくてもいい。ただ俺達は、ヒジリとモミジの横暴をやめさせたいんだ。俺達は、あんたらがヒジリとモミジに統治権を与えたと聞いた。だからあんたらならヒジリとモミジを止められるはずだ」
 レビアはパクリコンの言葉をうなずきながら聞いていた。しかし神像は言った。
「ヒジリとモミジは確かに我等が統治権を与えた。しかし……統治権を与えたことと、彼女等が横暴を働いていることはまた別だ。たとえ彼女等に統治権が無かろうとも、汝らの国を滅ぼすことくらいさほど難しくはなかろう。彼女等から統治権を剥奪したところで、はたして汝らの抱えている難問は解決されるのか?」
「それは……」
 パクリコンは言い淀んだ。すると今度はレビアが言った。
「じゃあこうしよう。あたし達に、ヒジリとモミジに会わせて。もしあたし達がヒジリとモミジを屈させることができれたなら、あたし達に統治権を移行してちょうだい」
「……」
 神像はしばらくの間黙った。しかしややあって神像はこう口にした。
「いいだろう。我等の難問を解き我等とあいまみえた者は、これまでヒジリとモミジのみであった。加えて難問を解いた汝らなら、ヒジリとモミジに匹敵する力があると認められよう。では……行くがよい」
 ガチャリと音がして、パクリコン達が経っている床の一部が抜け落ちた。そこには梯子がかけられてあり、床下へと続いている。
「そこからヒジリとモミジのいるところまで直行できよう。直に会い、決着をつけるがよい」
「ああ、分かった。ありがとうな」
 パクリコンはそう言って梯子に手をかけた。
「だが気を付けよ。ヒジリとモミジもまたこの難問を解いた者だ。すなわち、真実を問う難問、虚偽を見抜く難問、そして無作為を支配する難問だ。……ぬかるでないぞ」
「ああ、心に刻もう」

 二人は梯子を伝ってヒジリとモミジの連合軍総司令城の最奥部にたどり着いた。
 ヒジリとモミジとの戦いの火ぶたが今切られる。

(8-3 終わり)

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Author:パクリコン
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