迷探偵を、名探偵に

 安楽椅子探偵がありなら、ベッドから一歩も出てこないヒキコモリ探偵もありなのではないかと思っていた一日だった。死亡推定時刻の30分前に被害者の部屋で生じた不審な物音が記録されているテープが「昨日手に入れたブツです。ご確認ください」と書かれた紙とセットで自室の前に置かれているの。
 これは最近室外に出られずメールだけで外界とつながっている俺みたいなものだから、充分にアリだ。

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 『名探偵コナン』とは、ひょんなことから小学生の身体になってしまった高校生探偵がその正体を隠しつつ悪の組織を暴くという本格推理SF人情群像劇である。推理要素だけではなく、そこにSFの要素をも持つ『名探偵コナン』は多くのファンを魅了し、愛され、またしばしばツッコまれている。そんな『名探偵コナン』が本編にてついにいよいよ「どうせほとんど触れられないまま終わるんだろ」と広く思われていた「どうしてコナンはああなってしまったのか」というテーマに深く接近しているため、目が離せない。コナンは新一に戻ることができるのか、灰原は幸せを見つけることができるのか、蘭はコナンの正体をどのように知りどのように受け止めるのか、阿傘博士とは何者なのか、はたまた光彦の恋愛はどのような結末を迎えるのか。その堂々たるスペクタクルを今は座して待とうではないか。
 『名探偵コナン』というタイトルに伴った「アポトキシン4869とかいう薬のせいで小学生の身体になってしまった」という冒頭の描写を見て「おいおい、これじゃあKnoxの勝ちじゃないか」と思った読者は多かろう。たしかに探偵を名乗る少年を前にして「子供に戻る薬」なんてものはあるべきではない、と感じることは無理なきことである。しかし『名探偵コナン』はそもそも推理小説ではない。視覚に対する訴求力が最大化されたSF推理漫画である。言うまでもなく、SFとは「(非現実的だが)仮にこのようなモノがあったとして、世の中はどうなるか」というテーマをロジックで描写したものである。したがって一見相反する「探偵」と「SF」も、ロジックを軸とした描写の連続であるべきだという点では本質的に同じだ。なので「ロジックを視覚で訴えることによるリーダビリティ」を売りとすることで読者の理解を進ませ、結果的に事件に巻き込まれた人々の描写やそれに伴う人間ドラマに深みを持たせることに成功している。この点こそ『名探偵コナン』の表現技法の最大の利点である。
 SFとしての構成の魅力もまた捨てがたい。たとえば『名探偵コナン』では一貫して事件解決に先立って科学アイテムが登場している。彼等は必ず「○○があるという前提で事件が起こる」とか「○○を使って次の事件を解こう」といった姿勢で事件にこそ望むが、決して「事件が起きたから○○というものを作って解決しよう」とか「この事件は○○があれば成立する」という筋書きを採用しない。この流れにおける「以上を人・物をもって事件を暴く(いかに事件が成立したかを推察する)」というスタンスはSFやミステリに限らず広く有効かつ強力な手法として用いられており、同時に探偵と読者の両方に非天下り的な思考を共有させることができる。これは「社会とは、人ありきの世界である。したがってキャラクターは事件(科学アイテム)に対して主の存在であるべきであり、従の存在であってはならない」という哲学にも沿う合理的な構造を持つ。
 『名探偵コナン』におけるドラえもん的存在の阿傘博士は、この点においてあるべき姿を貫いている。阿傘博士はつねに事件に先んじて科学アイテムを作っており、非常に高い汎用性を備えた数々の機械を組み合わせることで様々な困難に臨んでいる。実際、阿傘博士がコナンのために一番最初に作った科学アイテムである蝶ネクタイ型変声器がいまだなお現役で活躍していることからも、阿傘博士のたぐいまれなる科学的先見の明は頻繁にうかがえる。全ての科学アイテムに対して「ボール射出機から出るボールは、ゴムとガスの関係上10秒間のみその形を保てる」とか「スケボーは太陽電池で動くため、太陽が出ている時のみ使える」という前提を予め話してくれる点も「以上の人・物をもって事件を暴く」というスタイルに整合し、加えて阿傘博士の持つ科学リテラシーとしても表現される。このように、ミステリをSFで支える大黒柱の阿傘博士は『名探偵コナン』の多くの魅力が見事に調和した結果生まれたキャラクターであるといえよう。
 『名探偵コナン』では多くのキャラクターがその豊かな個性を伴って事件に巻き込まれ、そのたびごとき数々の人間ドラマが描かれてきた。その中では、事件を解いてゆく探偵の皆さんのみならず、事件解決を支える阿傘博士などの影の立役者までもが魅力的に描写されている。事件とは決して誰か一人だけの手によって生じるものではないが、それは同時に事件解決も決して誰か一人だけの手によってなされているものでもない。その中でキャラクターたちが様々な困難を経験しつつも少しずつ世の有り様に対する理解を深めてゆく様は、まさに彼等の人生そのものの描写であると言っても過言ではない。
 52歳で独身で頭髪が寂しくて白髪で博士号を取っていて自称発明家で「大金持ちになるのが夢」と言いつつもあまり商魂たくましくなくて周囲から「ガラクタを作ってる発明家」と言われつつも己のプライドゆえに発明にこだわって子供たち相手にも遺憾なくその才能を発揮してはあらゆる科学的サポートを続けてきた阿傘博士に深い共感を抱きつつ、『名探偵コナン』最終章に期待しよう。

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