呪われた白い杖、承

 海老名童話『呪われた白い杖』の続編だか別ルートだかの話。

 ある日の夜のこと。
 いつものようにランカシーレがドレスの裾を押さえながらテラスに降り立つと、すぐさま王子は駆け寄って抱きしめてくれた。
「今日は一段と綺麗だ」
 王子はランカシーレの胸元に接吻をし、髪を撫ぜた。
 ランカシーレの水色のドレスは一段ときめ細やかな刺繍が施されてあり、豪勢なフリルで象られていた。紺色のトレーンは彼女の後ろに数メートルも従っており、桃色のガウンは帯によって彼女の豊満な胸をしっかりと支えていた。
「ラン、今夜も来てくれて嬉しい」
 王子の顔には陰りが見えた。
「だが……もう来ないでくれ」
「……どうしてです?」
 ランカシーレは小首をかしげた。しかし王子はランカシーレをひしと抱きしめ、彼女の耳元で囁いた。
「もうじき俺は戦争に行かねばならない。この国の未来がかかっているんだ。だから……もう君とは会えない」
 ランカシーレは王子の首筋に何度も唇を打ち付けた。そして最後に王子の曇った頬に唇を打ち付けると、
「もう会えないなんてことはないでしょう。帰ってきてくだされば、また会えますもの」
「無事に帰ってきたら、凱旋祝いに隣国の姫と婚約だとさ」
 ランカシーレは思わず王子の肌に爪を立てた。
「……私など、所詮は遊びの女だったということでございますのね」
「そう言い切ることができれば、どれだけ気が楽なことか」
 ランカシーレは王子の背中をさすりながら、ソファへといざなった。王子は腰を下ろすと、隣に座ったランカシーレの膝に頭を預けた。
「戦いは長く続くだろうし、続けざまに政略結婚ときたものだ」
 王子はランカシーレの乳房を下から突いた。豊満な乳房によって王子の顔は見えないが、乳房が何度も揺れるたびに王子の動揺が感じてとれた。
「戦いはどこで行われますの?」
「ギツア荒野付近だ。あのあたりに敵国の砦がたくさんある。まずはあそこが火の海と化すだろう」
 王子の言葉からは、勝利を確信できるだけのものを汲み取れなかった。
「ランカシーレ、愛している」
「ええ、私も」
 ランカシーレは王子の顔に乳房を乗せ、王子を抱きしめた。乳房の中で王子が何度も唇を打ち付けてくるのを感じた。

 翌日、王子率いる軍がギツア荒野に向けて出発するとの旨が国中に広がった。ランカシーレの例外ではなく、王子の無事と勝利を祈った。
 しかしランカシーレだけが違ったことといえば、その知らせを聞くや否や家を飛び出したことだろうか。
 ランカシーレは家の裏手に回り、誰にも分らないように白い杖を取り出した。そしてフリルと刺繍で彩られた鮮やかな水色のドレスに、ランカシーレの金髪とよく似合う紺色のトレーン、そして優雅な桃色のガウンを身にまとった姿に己を変え、最後に白い杖を大きな宝石のネックレスへと変えた。ランカシーレの足は見事なまでのガラスのピンヒールを従えていた。
「待っていて、王子様」
 ランカシーレはそうつぶやいて、空へと舞いあがった。

 ギツア荒野は戦を行うに値するほどの広さを持っていた。そしてそのギツア荒野を一望できる小高い丘も、当然持ち合わせていた。
 ランカシーレはその中で一番高い丘にその身を下した。強い風にドレスの裾が舞い、ガウンは何度も風にはためいた。
 ランカシーレはドレスの裾を押さえながら、ギアツ荒野を見下ろした。三々五々に敵国の砦が立っており、多くの兵士がゴットアプフェルフルス国軍を待ち構えていた。
「私の王子様を苦しめようだなど、この私が許しません!」
 ランカシーレはネックレスを白い杖に変え、右手で強く握りしめた。そして天に杖を掲げて、こう叫んだ。
「すべての敵兵よ! その身を異形のものに変えよ!」
 突風が巻き起こり、雷鳴がとどろいた。ランカシーレは「きゃあっ!」と叫んでドレスの裾を押さえたが、間違いなく白い杖の先からは黄色い光が天に向かってのぼっていった。
 次の瞬間、大きな稲光がギツア荒野に降り注ぎ、あたりはまばゆい光に包み込まれた。
「やぁんっ!」
 ランカシーレは思わず目をつぶり、身を縮ませた。
 やがて風が止み、ランカシーレは恐る恐る目を開けた。するとどうだろう、荒野にいた兵士は一人もいなくなり、代わりに薄汚く茶色い触手が数え切れないほどにうごめいているではないか。
「成功ですわ……!」
 ランカシーレはほっと胸をなでおろした。
 ランカシーレが白い杖を大きな宝石のネックレスに変え、ドレスの裾をただそうとしたときのことだった。蹄が大地を打ち付ける音が鳴り響き、一頭の馬とそれに乗った騎兵が現れたのだった。
 ランカシーレは慌ててその身を隠そうとしたが、あたりは膝丈程度の草しか生えておらず、豪奢なドレスを身にまとったランカシーレはどうしても目立っていた。
「姫君、そこで何をしているのです!? ここは危険です、早くお戻りを!」
 騎兵は馬から降りてランカシーレの腕をつかんだ。
「おやめくださいませ! 私は一人でも帰ることができますわ!」
「ここはもうじき戦場になります! 姫君をほうっておくわけにはいきません!」
 ランカシーレは騎兵の手を振りほどき、騎兵の足をピンヒールで踏みつけた。騎兵は顔をしかめたかと思うと、ランカシーレのネックレスを掴んで、
「いい気になるな、姫君! 城に戻るんだ!」
と言って馬へと引きずっていった。
 ランカシーレは、まったく抵抗ができなかった。

 敵城に連れてこられたランカシーレは、名を尋ねられた。しかし答えられるはずもなかった。生まれも家柄もゴットアプフェルフルスのランカシーレがその身を明かせば、ただで済むはずがなかったからだ。
 幸いなことに、敵城は大混乱に陥っていたため、大して根掘り葉掘り尋ねられなかった。なにしろ兵士という兵士が異形のものに姿を変えられてしまったからだ。
「姫君。あのような場所におともを連れずに行くなど、危険極まりないことです。おまけにそんな目立つお召し物でいるだなどもってのほかです」
 騎兵がさほどランカシーレにその素性を尋ねなかったのは、騎兵自身があまり貴族に詳しくなかったからだろう。ランカシーレは安堵して、何度も騎兵に「以後気を付けますわ」と言っては逃げ出す機会をうかがっていた。
 そのとき、敵城の人々が騒ぎはじめた。どうやら敵国の王がその城に訪れるというらしいのだ。
「国王の妾かもしれん。丁重に扱わねば」
 騎兵にそう言われて、ランカシーレには急遽個室があてがわれた。住み心地はよくなったかもしれないが、警備がなお厳重になり、脱出がさらに困難を極めた。
 一国の王が得体のしれぬ女のところにわざわざ来るはずもあるまい。いずれ夜になれば逃げる機会などいくらでも訪れよう。そうランカシーレは思うことにした。
 しかしあろうことか、国王は「妾かもしれない女性を保護した」との知らせをいち早く耳に入れ、間もなくしてランカシーレの個室に現れた。国王は精悍で筋肉質の、鍛え上げられた壮年の男そのものだった。
「彼女は私の妾だ。お前には礼をやろう」
 国王はそう言って騎兵に金貨を与え、個室の扉を閉めた。
 ランカシーレが驚いて何も言えずにいると、国王はランカシーレに近づいて抱き寄せ、強烈な接吻を施した。
 ランカシーレがいくらあがいても、国王の力には勝てなかった。
「そなたはゴットアプフェルフルスの舞踏会に現れた女だろう?」
 国王はにやりと笑みを浮かべて問うた。ランカシーレがかすかに首を横に振っても、
「その顔とドレスはそうそう忘れられるものではない。男を見くびらないでほしい」
と言ってさらにランカシーレに接吻を重ねてベッドに押し倒した。
 ランカシーレは何度も胸を揉まれ、恥部をまさぐられた。いくら腕で押しても、押し返されてねじ伏せられるだけであった。
 ランカシーレは必死にネックレスを握りしめ、ガラスのピンヒールに願いを込めた。そして思い切り国王をピンヒールで蹴り飛ばした。
 国王の体は勢いよく吹き飛ばされ、大きな音を立てて個室の壁に激突した。
「女を見くびらないでいただきとうございますわ!」
 ランカシーレはドレスをたくし上げてベッドから降り、国王の顔をピンヒールで思い切り蹴りつけた。
 国王が倒れて動かなくなったのを見届けると、ランカシーレはドレスの裾をただして国王の冠を手に取った。
「最初からこうすれば良かったのですわ」
 ランカシーレは冠を頭に載せた。不思議と冠は、ランカシーレの頭にピタリと収まる大きさに変わった。
 ランカシーレは国王を踏みつけた。そしてネックレスを白い杖に変え、天に向けて叫んだ。
「私こそがこの国の女王です! 皆のものよ、私を女王と認めなさい!」
 再び雷鳴が轟き、大きな稲光が大地に降り注いだ。

 ゴットアプフェルフルス軍がギツア荒野をいくら進んでも異形の触手しか見当たらず、敵兵は一人として待ち構えてなかった。そして城からやってきたという使者に導かれるがままに向かった先では、玉座に見知った女性が座っていた。
「ごきげんよう、私の大好きな王子様」
 ランカシーレはドレスをたくし上げて、玉座から一段一段降りた。そして王子の前に立ち、その口唇に接吻を施した。
「お待ちしておりましたわ。さあ、戦いなんてやめましょう?」
 王子は信じられない光景を目の当たりにしたかのようだったが、やがて口を開いた。
「ラン……? いったいどうして……?」
「どうしてもなにも、空を飛べる私に不可能なことなどございませんの」
 ランカシーレはドレスを大胆にたくし上げて、王子に再び接吻をした。
「さあ、私とあなたの婚約を発表いたしましょう? あなたのお相手にふさわしいのが誰なのか、考えるまでもないでしょう?」
 ランカシーレは王子の手を引いて、城の外へと向かった。

 城の外には、大勢の兵士が集まっていた。大半はゴットアプフェルフルス軍であったが、中にはその場に駆け付けた敵国の騎兵もちらほら混ざっていた。
「ほら、ごらんなさい。皆様は私とあなたが婚約を発表することを待ち望んでいらっしゃいますの」
 ランカシーレは王子の腕に抱き着いた。ランカシーレの豊満な乳房が王子の腕を包んだ。
「ほら、あの異形の者たちも」
 ランカシーレが目くばせした先には、薄汚い茶色の触手がうごめいていた。直径はおよそ三十センチほどだが、中には五十センチに達するものもいた。
 ランカシーレはドレスをたくし上げて触手のもとへと歩み寄った。そして触手の赤黒い先端を撫ぜ、胴体に脈打つ青黒い筋を指でつーっとなぞった。
 触手の先から白い液体がこぼれた。
「ほら。異形の者も喜んでいらっしゃいますのよ」
 ランカシーレはドレスを捌いて白濁の液を避けた。
 そのときだった。一匹の触手がランカシーレ女王のドレスの裾の下をくぐってしまった。
「まあ!」
 ランカシーレはドレスをたくし上げて、その触手を思い切り踏みつけた。哀れな触手な白濁の液を吐きながら、何度もランカシーレに蹴りつけられていた。
「相手が誰であろうと、無礼者は許しませんわ!」
 ランカシーレが蹴り飛ばすと、その触手は白濁の液を大量にまき散らしながら地を転がっていった。そして白濁の液はランカシーレのはためくドレスにもかかってしまった。
「やだっ! んもう!」
 ランカシーレがドレスの裾を振って落とそうとしたが、白濁の液はこびりついて離れなかった。
 そのときだった。白濁の液がまばゆく光ったかと思うと、ドレス全身がその光に包まれ、ポンという音とともにランカシーレのドレスは姿を変えた。色合いこそ変わらないものの、フリルは豪華になり、刺繍は細やかになり、何重にもわたって飾りの布があてがわれていた。
「まあ、良い置き土産ですこと!」
 ランカシーレは次の触手を踏みつけ、あらん限りの白濁の液をドレスの裾の上にしたたらせた。ドレスはその姿を変えるたびに美を極め、裾は長くなり、ドレス自身も大きく広がった。
「さあ、もっといらっしゃい!」
 ランカシーレは触手を踏み、あるいは触手の青筋を指でなぞり、ときには触手それ自体をしごきながら何度も白濁を己のドレスにしたたらせていった。そのたびにドレスも、トレーンも、ガウンも、いまだ誰も目にしたことがないような細やかで豪奢で美しいものへと変わっていった。それにともないドレスの裾周りは大きくなり、トレーンやガウンもその長さを増していった。
 気が付けばランカシーレは直径四メートルに達そうとしているドレスを身にまとったまま、地に座って触手をめでていた。ときには白濁の液を飲みながら、そのドレスをさらに豪奢なものへと変えていった。
 ランカシーレの欲望はとどまるところを知らなかったが、ついにランカシーレの前に直径一メートルほどの触手が現れた。
「なんて素晴らしい異形でしょう!」
 ランカシーレは立ち上がり、ドレスを大胆にたくし上げながらその触手に近づいた。ランカシーレが一歩進むたびにドレスはほかの触手を蹴散らしており、トレーンやガウンは触手を薙いでいた。
 ランカシーレは直径一メートルの触手に抱き着いた。ランカシーレは白濁の液を吐く触手孔に接吻を施し、強くその触手をしごいた。青筋をなぞり、皮の剥き、触手の裏を何度もさすった。そしてそのたびごとに、触手はしだいにその体を怒張させていった。
「早く! 早く!」
 ランカシーレは触手を抱きかかえて、執拗に裏筋をしごいた。触手は何度ものけぞり、その身をランカシーレの乳房にうずめた。
 そしてついにその時がやって来た。
 触手はその口から白濁の液を噴出し、ランカシーレの胸元にぶちまけたのだった。
「いやぁんっ!」
 ランカシーレはドレスの中で白濁の液を味わっていた。しかしそのため、ランカシーレはまったく気づいていなかった。そう、これまで一度として白濁の液に触れてこなかったネックレスが、ついに白濁の液で汚れてしまったことに。
 ランカシーレがその身をよじらせたときに、ネックレスはランカシーレの首元から落ちた。ドレスの裾近くに落ちたそのネックレスを見やると、ネックレスは真っ二つにひび割れてしまっていた。
「うそ!」
 ランカシーレは、もはや己を守るものがどこにもないことに気づいた。しかし時はすでに遅く、ランカシーレは幾多もの触手によってドレスの中を侵されていた。
「やだっ! 助けてっ! 王子様っ!」
 ランカシーレがそう言い終える前に、一本の触手がランカシーレの生足に体当たりをした。ランカシーレはバランスを崩し、触手たちの中へと身を投じてしまった。臀部から下腹部に至るまで、触手という触手が味わい始めてしまった。
「いやあっ、いやあああっ! いやああああああっ!」
 ランカシーレがもがくたびに、触手たちはランカシーレに白濁の液をぶちまけた。そのドレス、トレーン、ガウン、脚、胸、そして顔に、触手たちはとめどなく白濁の液を吐き続けた。

 王子は触手を追い払い、ランカシーレをなんとか城の中へと導いた。
 ランカシーレは五メートル以上も向こうに見える裾を見やりながら、一歩一歩慎重に進んでいった。トレーンはランカシーレに必要以上の摩擦を与えたが、それでもランカシーレは進むよりほかなかった。
 ランカシーレのドレスとトレーン、それにガウンが無事に城内に収まったとき、王子はランカシーレに告げた。
「君は誰よりも美しい女王で、何よりも素晴らしいドレスの持ち主かもしれない」
 ランカシーレはドレスの裾を掴みながら微笑んだ。しかし王子はつづけた。
「でも、誰よりも弱い存在だ」
 王子はランカシーレのドレスを剣で切り裂いた。ランカシーレの前裾が開き、ランカシーレは楽に歩けるようになった。
「二度と会いに来ないでくれ」
 そう言ってランカシーレは外に締め出された。
 ランカシーレは触手を逃れんとして空を舞おうとしたが、もはやドレスは彼女の意に従ってくれなかった。

 切り裂かれたドレスをたくし上げ、生足をあらわにしながら、ランカシーレはギツア荒野を駆けた。
 触手に追いかけられながら、裾をたなびかせながら。
 やがて息が切れて触手に追いつかれたランカシーレは、触手の餌食となった。
 その胎に幾度となく白濁の液を注がれたランカシーレには、もはや抗う気力すら残されていなかった。
 豪奢だったはずのドレスを握りしめながら、ランカシーレは王子の名を口にして、さいごに意識を失った。
 ランカシーレの肉体だったものは、完全に触手と白濁の液で埋めつくされてしまった。

(終)

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