セカイキあるいは世界樹ポエムの失う物の有無論

 セカイキが俺をなりすましの犯人だと決めつけていた頃に、セカイキがこのような主旨のリプライを寄越してきた。
「私は現在5000万円を持っている。裁判を起こすことは可能だ。そして裁判になったらどうなるか、分かるか? 私は無職だ。つまり、私には失う物が無いということだ」

 失ってはならない物があるのは誰なのか、考えるまでもないことだと感じた瞬間だった。

 セカイキはこれまで無職だ。働いた経験も無ければ修めた学も無い。職歴や学歴が無くても人脈や行動力あれば職に就けるのは事実だが、そんな人脈も行動力もセカイキには無い。つまりセカイキは、親がこしらえた5000万円を食いつぶす以外に生きてゆく道が無いのだ。
 世の中では、趣味がこうじて職となることもある。しかし彼の趣味ともいえるニコ生において、セカイキは女性生主に性的な嫌がらせを執拗に繰り返し、RTA放送では不正を行い、やると決めたはずのSECUP(セカップ)やRTAオリンピックなどにも全く着手しなかった。そしてそれらに対して何度も申し開きの場が与えられたにもかかわらず、セカイキは最後まで「私は悪くない。悪いのはリスナーだ」と主張していたため、結局RTA界の鼻つまみとなってしまった。「うまく振る舞えば、セカイキもRTA界で数多の活躍を披露できただろうに」と誰もが思ったことだろう。
 ポエミングにおいても盗作(タイトル「植物」)を行ったことは――彼にとっては大事ではなかったのかもしれないが――完全なる悪手だろう。
 いずれにしても、セカイキは自ら「親の遺した金に依存するしかない」という状況を作り出してしまっている。そのためセカイキは、何が無くとも「親の金だけは失ってはいけない」という現状の真っただ中にいる。
 そんな「何は無くとも失ってはいけない親の金」を費やして裁判をするというのだから、計画性がよほどあるのか、あるいはよほど無いのか、俺には判断がつかなかった。しかしセカイキの計画性がどうであれ、すぐさまネット恋愛にはまってしまったセカイキに裁判を起こす気合などあるはずもなかった。

 立場としては、俺はセカイキの正反対にあるといえるだろう。俺には人に自慢できるような預金なんて無いし、自由に使える何千万円ものお金だって無い。けれど日々を暮らしてゆく程度の稼ぎならあるし、誇らしくてしかたがない職もある。己の矜持をまるまる預けられる趣味もあるし、愛すべき友人たちもいる。幸運なことに、近所の人たちとも非常に仲が良い。それに何より、毎日が楽しくてしかたがない。これまでの人生を振り返るたびに、
「俺は俺でいられて良かった。これからも俺でありつづけたい」
と何の根拠も無く肯定的に感じられる。
 その自己肯定の源は何かと探ってゆくと、どうしても「周囲の人たちの力を借りて己の力でつかみ取ったものが、ずっと己の傍にあるから」という後天的な事象に辿りつく。たしかに俺自身はとても幸運な人間だったが、それは「天から降ってわいてきたものがたくさんあったから」ではなく、「俺たちの手で知識や経験、技術を獲得する機会がたくさん訪れたから」そう思えるのだ。

 もし俺とセカイキが裁判を行ったとして、俺は何を失うのだろうか。セカイキがやろうとしていた裁判では俺は職を失えないし、セカイキと面識のない友人たちが俺のもとを去ってゆくとも思えない。近所の人たちが見ず知らずのセカイキの行動によって俺への見方を変えるとも思えないし、セカイキのせいで俺の画力や脚力が落ちるとも思えない。むろん預金残高は減るかもしれないが、減ったものはまた増やせばいい。
 しかしセカイキの5000万円は減ってゆく一方だ。働く術を知らず、手に職を持たぬ三十路過ぎの男性は、ひとつの職を得るのにどれほどの金と時間と労力を必要とするだろうか。セカイキの体力だって落ちてゆく一方だろうし、セカイキの衰えを支えてくれる人だっていない。

 セカイキは、
人間関係は減点方式だから、絡めば絡むほど、減点されていくだけなんです。
と定期的にツイートしている。セカイキは加点を試みないので減点しかされえず、当たり前といえば当たり前な発言である。しかし、
「それは人間関係だけに限った話ではなかろうに」
と爾来感じるようになった。

 「何が何でも絶対に頼れるものがひとつある」という意味では、俺もセカイキも同じだ。
 ただ、俺にとっての「絶対に頼れるもの」は決して失われえず損なわれえないものだが、一方でセカイキにとっての「それにしか頼れないもの」は今後食いつぶされてゆくばかりだ。




 ドーナツの中心。
 サティスファクション。
 生命のスープ。

 大切なものはどれも、見えるんだけど見えないものばかりだ。

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